問題は、教職員の善意ではなく「勤務時間中に誰の事務をしているか」です
学校とPTAは協力関係を持ち得ます。しかし、学校職員が勤務時間中に、PTAの会計、集金、名簿、役員選出、文書作成、封入、メール配信などを恒常的に担う場合、それは学校の職務なのか、PTAという別団体の内部事務なのかを分けて確認する必要があります。
- 作業内容――連絡調整か、PTA内部事務か学校行事、施設利用、安全管理等に必要な連絡は、学校の職務として位置付けられている範囲を確認します。PTA会計、会員名簿、役員選出、会費徴収はPTA内部事務です。
- 時間――勤務時間、休憩時間、時間外のどこか開始・終了時刻と所要時間を確認します。休憩時間として扱った場合は、実際の休憩を別の時間に確保したかも確認します。
- 身分――学校職員としてか、PTA会員・役員としてか同じ教職員でも、学校の職務上の立場とPTAという私的団体の構成員としての立場は同じではありません。
- 根拠――校務、職務命令、職専免、兼職兼業のどれか校務として扱うなら学校が担うべき職務との関係を、服務免除を使うなら根拠規則、対象者、時間、用務、申請・承認記録を確認します。
- 公的資源――情報、会計、施設、機器を使ったか学校名簿、学校口座、連絡ツール、電話、印刷機、用紙、勤務時間の利用は、それぞれ別に根拠と管理責任を確認します。
- 是正――停止すべき処理と、引き継ぐ事務を分ける個人情報や会費処理のように主体を誤っている処理は停止し、問い合わせ窓口や事務手順は期限を定めてPTA側へ移します。
教職員の職務を明確にする資料は、PTA事務の線引きにも使えます
学校現場では、保護者対応、地域連携、学校運営協議会、学校行事の調整など、教職員が関わるべき周辺業務があります。そのため、「PTAと連絡を取ったら直ちに問題」という整理ではなく、学校教育上必要な連絡調整と、PTAという別団体の内部事務代行を分けて見る必要があります。
教職員の標準的な職務や学校管理規則の整備に関する資料は、この線引きを考える材料になります。学校が担うべき職務を明確にするほど、PTA会計、PTA名簿、役員選出、会費徴収、印刷・封入などを勤務時間内に恒常処理する根拠は説明しにくくなります。
名称ではなく処理の実体で分類します。「渉外」「地域連携」「保護者対応」と呼んでいても、実際に会員名簿、会費、役員選出、PTA広報を処理していれば、その部分はPTA内部事務として切り分けます。
地方公務員法第35条だけでなく、教員の職務と働き方改革資料を合わせて読む
教職員のPTA事務関与を確認するときは、地方公務員法第35条の条文だけでなく、教員の標準的な職務、学校における働き方改革、学校徴収金や外部対応の整理を合わせて見る必要があります。PTAとの連絡調整はあり得ますが、会費徴収、未納確認、会計処理、名簿作成、役員選出、広報編集を学校職務として扱うには、別途根拠説明が必要です。
「担任がPTA文書を配布・回収する」「事務室がPTA会費を処理する」といった運用は、慣行だけで学校職務になるものではありません。地方公務員法第35条との関係では、作業の内容、校務としての位置付け、職務命令、職専免等の有無を文書で確認する必要があります。このページでは、連絡調整とPTA内部事務を分け、確認すべき根拠と移行方法を整理します。
図解:職務専念義務の壁
問題の核心は、勤務時間中の作業が当該地方公共団体の職務として位置付けられているか、それともPTAという別団体の内部事務なのかを確認できることです。
職員は、法律又は条例に特別の定がある場合を除く外、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。
PTAは学校とは別の任意団体です。教職員が勤務時間中にPTA内部事務を担う場合は、校務としての位置付け、職務命令、職専免等の根拠、学校による便宜供与の範囲を確認します。
行政実例が示す、学校職務と任意団体事務の区別
昭和39年の行政実例は、県立学校におけるPTA・同窓会等の外郭団体の業務が、地方公務員法第35条の「地方公共団体がなすべき責を有する職務」に含まれるか、また、含まれる場合に残勤した職員へ時間外勤務手当を支給できるか等を尋ねた照会への回答です。自治省行政局編『地方公務員法実例判例集 昭和42年刊』には、「職員がPTA等の業務を行なった場合に時間外勤務手当を支給することができるか」という見出しで収録されています。
回答はこの一般原則を前提に、地方公共団体の職員が正規の勤務時間外に任意団体の事務へ従事しても、自治体から時間外勤務手当を支給することはできないと整理しています。したがって、この実例は勤務時間内の職務専念義務だけでなく、勤務時間外の処理を公費で補償できるかという問題にも及びます。
一方、滋賀県監査委員は2026年の住民監査請求で、PTA会費徴収事務は本来的には私的団体の事務であるとしながら、対象となった県立高校の個別事案について、授業料等と一体的に処理されていたこと、委任、取扱要領・ガイドライン、校務分掌、校長の指揮監督等を検討しました。そのうえで、「地方公共団体の事務と同一視し得るような特段の事情」と地方公共団体の指揮監督があるとして、地方公務員法第35条に反しないと判断しました。
これは滋賀県の個別監査判断であり、PTAから委任を受ければ当然に学校職務へ転換できるという一般的な根拠ではありません。行政実例だけであらゆる連絡調整を否定することも、委任書や校務分掌だけでPTA内部事務を一律に公務化することも避け、具体的な作業、学校側の受任権限、規程、指揮監督、情報・会計・施設の利用、費用負担を確認する必要があります。「昔から行っていた」「暗黙の了解だった」だけでは、職務上の根拠を説明したことにはなりません。
職務命令の有無と、その命令の前提となる職務上の根拠は別の問いです。「校長が命じた」と回答する場合も、どの学校事務として、どの規程・職務分掌・処理基準に基づいて命じたのかまで確認します。
服務免除制度との関係
地方公務員法第35条冒頭の例外規定と各自治体の条例・規則により、一定の場合に職務専念義務が免除されることがあります。PTA関係で適用する場合は、対象者、用務、日時、承認権者、申請・承認記録を確認します。包括的・恒常的な取扱いが可能かは、各自治体の規定と実際の承認内容によります。
学校の連絡調整とPTA内部事務を分ける
「一切の関与禁止」ではありません。渉外業務(学校↔PTA間の連絡調整窓口)を基本的な接点とし、PTA内部事務の代行と分けて確認します。
PTA内部事務のために、学校が会員・非会員を恒常的に把握する必要はありません。PTAの入会届、会員名簿、会費、役員選出をPTA自身の手続に戻せば、学校は教育上必要な保護者情報だけを管理し、PTA加入状況を学校事務へ持ち込まずに済みます。
教職員がPTA役員になること
校長、教頭、教員がPTAの副会長、会計、書記等を兼ねる例があります。この場合は、学校職務上の立場とPTA役員としての立場を分け、次の点を確認します。
- 勤務時間中の役員活動について、校務、職務命令、職専免等の根拠があるか
- 学校の公的権限とPTAの私的意思決定が混同されていないか
- 管理職の役職が、加入や議決に対する心理的圧力を生じさせていないか
- 管理職が会計を担うと公費・私費の区分が一層曖昧になる
社会教育法第12条との関係でも、行政・学校による統制的支配とならないよう、学校の公的権限とPTAの自主的意思決定を分ける役割設計が必要です。
是正の進め方:停止すべき処理と、引き継ぐ事務を分ける
「機能不全になる」という懸念は、根拠を確認できない処理を無期限に続ける理由にはなりません。学校保有の個人情報、学校口座による会費処理、会員名簿や未納情報の管理など、主体を誤ることで権利侵害や会計上の混同が続く処理は、停止日と暫定的な保護措置を先に定めます。
一方、問い合わせ窓口、文書作成、会計ソフト、連絡先の移管など、PTA側の事務体制を整えるための引継ぎは、担当者と期限を定めて進めます。移行期間を設ける場合も、学校をPTA内部事務の恒常的な主体として残さないことが必要です。
現状の棚卸し
教職員が行っているPTA関連作業をリストアップします(配布物・集金補助・印刷・電話対応など)。多くの場合、誰も「全体像」を把握していないまま慣習が続いています。
PTA内部事務の受け皿を確定する
会費管理、会員連絡、総会資料、役員選出等について、PTA側の口座、連絡手段、会計・会員管理体制へ移します。「学校でなければできない」とする作業は、必要性と代替方法を一件ずつ確認します。
校長・教育委員会と移行計画を共有する
現行運用の職務上の根拠を確認し、停止対象、移行対象、期限、担当者を記載した計画を、校長・教育委員会・PTAで共有します。
切り離し後の連絡調整と協力範囲を書面化する
学校とPTAの連絡窓口、学校が扱う事項、PTAが自ら処理する内部事務、施設・情報・会計の責任範囲を文書化します。
全国教育委員会の回答に見る共通認識
掲載している教育委員会回答には、PTA内部事務への教職員関与について、職務専念義務や服務上の整理を要するという趣旨の回答が含まれています。件数を引用する場合は、回答本文と分類タグを分けて確認してください。
適切な回答例の傾向
「PTA活動は教職員の職務ではないため、勤務時間中の従事は適切でない」「会費集金・名簿管理は学校の所掌外」とする回答が複数の教育委員会から確認されています。
曖昧な回答例の傾向
「各学校の判断に委ねている」「慣行的に行われているが問題とは認識していない」という回答もあり、教育委員会自体の認識が整理されていないケースも見られます。
回答全文は教育委員会の回答ページで自治体別に確認できます。
確認に使う一次資料
教職員がPTA事務に関与する問題は、「慣行」ではなく、職務専念義務、兼職兼業、学校会計処理、学校関係団体との関係として整理します。昭和39年行政実例の原資料、地方公務員法第35条、後年の行政資料を区別して確認します。
- 自治省行政局編『地方公務員法実例判例集 昭和42年刊』:昭和39年1月20日付け自治給第14号の照会・回答を収録。該当箇所は「職員がPTA等の業務を行なった場合に時間外勤務手当を支給することができるか」(国立国会図書館デジタルコレクション・コマ227)。
- 滋賀県監査委員「住民監査請求に係る監査結果」:行政実例の文言を確認できるとともに、2026年の個別事案における「特段の事情」と指揮監督の判断を掲載(滋賀県公報・公式PDF)。
- 文部科学省 学校関係団体が実施する事業に係る兼職兼業等の取扱い等:PTA等学校関係団体、兼職兼業、学校会計処理、教職員関与の入口(公式ページ)。
- 地方公務員法35条:職務専念義務を確認する条文(e-Gov法令検索)。
- 教職員関与の照会項目:勤務時間、職務命令、職専免、兼職兼業、会計処理、移行計画を確認します(確認項目へ)。
校長・教頭がPTA会計や書記を兼ねるとき、どの責任が重なるのか
教頭が会員名簿を更新し、事務職員が振替データを作り、担任が未納者へ連絡し、校長が決算を確認する運用を考えます。これは特定校の新たな調査結果ではなく、作業を分解するための例です。「学校が少し協力している」とまとめると、会員の確定、金銭の請求、情報の処理、会計監査という異なる責任が見えなくなります。
PTA役員として行うなら、PTAの選任手続、本人の就任意思、会則上の職責を確認します。学校職員として行うなら、学校が担うべき事務である根拠が先に必要です。校務分掌は担当者を示す文書であり、PTA側の役職名と学校側の担当名を並べただけでは、所掌事務や受任権限の説明になりません。
この仮例を調べるときは、教頭の名簿更新について情報の取得元と入力権限、事務職員の振替処理について委任の相手方・対象範囲と学校側の決裁、担任の未納連絡について請求主体と連絡記録、校長の決算確認についてPTA会則上の役割と学校職務上の立場を対応付けます。一人の職員が兼ねていても、それぞれの作業の根拠が同じとは限りません。
職専免・無報酬・勤務時間外という説明の限界
地方公務員法35条に関する職務専念義務の免除は、勤務時間中の服務を整理する制度です。免除によってPTA事務そのものが学校の所掌事務へ変わるわけではありません。無報酬であることや勤務時間外であることも、学校名簿・口座情報・学校メールの利用や、公費で購入した物品の使用を一括して認める理由にはなりません。
したがって、「職専免を取った」と回答された場合も、学校保有情報を利用する根拠、PTAの資金を取り扱う根拠と精算、施設・印刷機・電話等の使用条件を別々に確認します。学校連絡システムをPTA専用表示にしていても、学校職員が宛先を選び、送信や問い合わせ対応を担えば、作業の主体は分離されていません。
公的調査を、現在の学校の違反認定と混同しない
文部科学省の点検・調査結果(2013年1月登録)には、2007~2011年度を対象に、学校関係団体の補習等で教職員が必要な手続なく報酬を受けた事例や、学校関係経費を団体が負担した事例が掲載されています。これは現在の全校調査でも、すべてのPTA役員兼務を禁止した通知でもありません。具体的な事業、服務手続、経費負担を分けて調べる必要を示す資料です。
当委員会の提言:総会資料作成、書記、名簿更新、会費の照合・督促、役員選出、会員向け問い合わせはPTAの窓口と担当者へ戻します。学校側には学校行事との調整、安全管理、施設利用の判断等を残し、連絡調整と団体の内部運営を分けます。担当教員の異動でPTAの口座や連絡が止まらない仕組みにすることが、両者の責任を明確にします。
加筆・原典確認:2026年9月9日(本節)。昭和39年行政実例と個別監査判断は、前節の出典・射程を参照してください。
兼職兼業・職専免資料を、教育委員会への照会項目に変える
兼職兼業、職務専念義務免除、学校関係団体の会計処理に関する資料は、抽象的な制度説明で終わらせず、学校現場の実務を確認する質問に変換できます。教育委員会に照会する際は、「PTAに協力してよいか」ではなく、学校職員がどの身分・どの時間・どの根拠で関与しているのかを、回答の逃げ道が重ならない順序で確認します。
回答は分岐ごとに文書で確定させます。校務だというなら所掌事務と職務上の根拠を、私人としての活動だというなら勤務時間・施設・情報・会計を使える根拠を、休憩時間だというなら実際の休憩確保を示す必要があります。
配布、回収、名簿、会費、会計、役員選出、広報、行事補助のどれを、誰の名義と責任で処理したか。
PTA会計、集金、名簿、印刷、メール配信、総会資料作成が勤務時間内に行われているか。
休憩時間中の活動と処理したなら、自由利用できる休憩を別の時間に実際に確保したか。
校務として命じているのか、慣行的に任せているのか、個人の任意協力なのか。
職務専念義務免除を使っているなら、根拠規則、対象者、時間、用務、承認記録があるか。
PTA役員・会計担当・事務担当としての地位を兼ねる場合、兼職兼業の手続を整理しているか。
学校事務室がPTA通帳、現金、振替データ、領収書、決算資料を扱っていないか。
学校名簿、連絡ツール、電話、印刷機、用紙、校内保管場所を使った目的と根拠は何か。
私人としてのPTA活動だというなら、その活動に合わせて授業日課、会議、教職員配置を変更した学校運営上・教育上の理由は何か。
教職員依存がある場合、停止する処理、PTA側へ移す事務、期限、担当、確認方法を定めているか。
よくある質問
勤務時間中に恒常的・組織的に行われている場合は、その作業が校務として特定されているか、職務命令または職専免等の根拠があるかを確認します。作業量の大小だけでなく、誰の事務を、どの身分と時間で行っているかが重要です。
職務専念義務免除は、各自治体の条例・規則に基づいて行われます。PTA関係で適用する場合は、対象者、用務、日時、申請・承認記録、承認権者を確認します。校長の口頭了解だけで足りるか、包括的な取扱いが可能かは自治体の規定によります。職専免の有無とは別に、学校施設・情報・会計等の便宜供与の根拠も確認します。
総会への出席は、学校代表としての説明・連絡調整なのか、PTA役員としての議決参加なのかを分けます。役員として議決権を行使し、予算・人事・会員管理を担う場合は、兼職等の手続、勤務時間の取扱い、学校の公的権限とPTAの自主的意思決定の分離を確認します。
まず、会費集計が校務として特定されているか、職務命令、職専免、学校会計規程等の根拠があるかを確認します。根拠が明確でない場合は、PTAが自ら会計と徴収を担う体制を整え、学校事務職員への依存を段階的に終了する計画を共有します。
善意で行われてきたことは尊重しつつ、勤務時間中の作業が学校職務なのかPTA内部事務なのかは別に確認します。根拠が明確でない恒常的な運用は、教職員本人にも服務上の負担やリスクを生じさせます。個人を責めるのではなく、学校・教育委員会・PTAの役割分担を組織として見直します。
できます。教育委員会は、所管する学校の管理、教職員の服務、学校事務の適正な処理について権限と責任を持ちます。照会では、抽象的に「PTAへ協力してよいか」を尋ねるのではなく、作業内容、勤務時間、校務としての位置付け、職務命令、職専免・兼職等の根拠、会計・情報・施設の取扱いを具体的に確認します。
