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住民監査請求・公務性・公私分離

100の屁理屈と循環論法――滋賀県PTA住民監査請求は行政の急所を突いた

「禁止されていない」「一般に」「一体処理」「特段の事情」――法令上の根拠を示せず、三者契約と別制度の東京高裁判決に頼った監査判断。そして、従来の学校・PTA一体運営を国の制度改革が追い越し始めている。

「禁止されていない」「一般に」「一体処理」「特段の事情」――法令上の根拠を示せず、三者契約と別制度の東京高裁判決に頼った監査判断。そして、従来の学校・PTA一体運営を国の制度改革が追い越し始めている。

PTA適正化推進委員会

2026年10月13日

はじめに――これほどの理屈を重ねなければ、棄却できなかったのか

2026年5月26日、滋賀県監査委員は、県立高等学校におけるPTA会費徴収を含む業務委託契約に関する住民監査請求を、一部却下・一部棄却した。

結果だけを見れば、請求人の求めた措置は認められなかった。

しかし、この監査結果を詳しく読むと、むしろ別の意味で驚かされる。

監査委員は、PTAが私的団体であること、PTA会費が県の公金ではないこと、本来的な徴収権者がPTAであることを、明確に認定している。

さらに、監査対象機関である滋賀県教育委員会側は、学校徴収金の徴収について、明確な法的根拠が見当たらない旨まで説明している。

それにもかかわらず、監査委員は、学校職員によるPTA会費徴収について地方公務員法第35条違反を否定した。

そのために持ち出されたのが、次のような説明である。

PTAには公益性がある。

学校教育を支援している。

授業料等と一緒に徴収している。

PTAから校長への委任がある。

校務分掌に位置付けられている。

校長の指揮監督が及んでいる。

旧自治省の行政実例にある「一般に」という言葉には例外の余地がある。

そして最後には、土地区画整理組合への市職員の事務従事を扱った東京高裁判決まで登場する。

これだけの事情を積み上げて、ようやくPTA会費徴収事務は地方公共団体の事務と同一視できるという結論に至ったのである。

しかし、肝心な説明がない。

公立学校が、独立した私的団体であるPTAの会費徴収を行える法令上の所掌事務・業務は、結局どこにあるのか。

本来、この一点を説明すれば済む話ではないか。

それができず、公益性、利便性、委任、校務分掌、指揮監督、さらに別の法制度を前提とした裁判例まで持ち出さなければならなかった。

なぜ、これほど説明が複雑になったのだろうか。

本稿が問題にするのは、単に監査委員の結論が気に入らないということではない。

その結論に到達するための論証が、なぜこれほど苦しいものになったのかという問題である。

さらに、この監査が行われた2026年には、国の制度整理が既に大きく進んでいた。

2023年の地方分権改革では、総務省が私人の現金保管について法律又は政令上の根拠が必要であると説明していた。

2025年には、文部科学省が学校徴収金の公会計化について、学校教育活動に対する設置者の責任を根拠として整理していた。

2026年3月には、校務DXチェックリストからPTA会費を含む四費目が削除された。

同じ2026年3月、個人情報保護委員会は、公立学校とPTAの個人情報の取扱いについて、学校側の根拠法令と所掌事務・業務の確認を出発点とする資料を公表していた。

こうした変化が進む中で、滋賀県監査委員は、従来の学校徴収実務を前提とした公益性や一体処理の説明を積み重ねた。

この時間軸も、今回の監査結果を考えるうえで重要である。

そして、さらに注目すべきは、滋賀県、滋賀銀行、滋賀県公立高等学校PTA連合会による三者契約という仕組みである。

公的主体と私的団体で費用を分担し、銀行による徴収・収納事務を一体化する。

一見すると、うまく制度を設計したように見える。

しかし、そんな仕組みを作ったところで、PTA会費の本来的な帰属も、学校が引き受けられる事務の範囲も変わらない。

三者契約によって学校徴収を正当化し、今度はその一体処理の存在を根拠として公務性を認める。

そこには、二重の循環論法ともいえる構造が存在する。

本稿では、この問題も正面から取り上げる。


1 住民監査請求の概要――何が問題となったのか

本件住民監査請求は、2026年4月1日、大津市在住の井上哲也氏によって提出された。

対象となったのは、滋賀県が2025年4月1日付で締結した「滋賀県立高等学校授業料等の徴収および収納に関する事務処理業務委託契約」である。

契約当事者は、次の三者であった。

  • 滋賀県
  • 株式会社滋賀銀行
  • 滋賀県公立高等学校PTA連合会(高P連)

この契約は、名称のとおり授業料等の徴収・収納に関する業務委託契約である。

しかし、その対象は授業料だけではなかった。

教材費、修学旅行積立金等の学校預かり金に加え、PTA会費等の団体徴収金まで、一体的に処理する仕組みとなっていた。

委託料総額は822万3,810円。

そのうち滋賀県の負担額は471万4,287円、高P連の負担額は350万9,523円であった。

学校側では、PTA会長から校長への会計事務委任を受け、県費職員である学校事務職員が、納入通知書の送付、口座振替に関する事務、収納状況の確認、未納者への連絡などに関与していた。

請求人が問うたのは、この仕組みの適法性である。

PTAは学校とは別の任意団体である。

PTA会費は、PTAという私的団体とその会員との法律関係に基づいて発生する。

その徴収は、本来的にはPTA固有の内部事務である。

にもかかわらず、学校職員が勤務時間中にその事務に従事し、さらに徴収・収納業務のための委託料を県が負担している。

これは地方公務員法第35条の職務専念義務に反しないのか。

県の委託料支出は、地方自治法第2条第14項に照らして合理的なのか。

また、PTAへの加入意思が十分に確認されていない保護者からの徴収や、非加入者への返金を伴う仕組みも問題とされた。

請求人は、公私を分離した契約体系への見直し、学校徴収金取扱要領・ガイドラインの改正、委託料や職員人件費相当額について必要な措置を講ずることなどを求めた。

監査委員は4月15日に請求を受理した。

4月22日には請求人の陳述及び証拠提出が行われ、その後、教育委員会事務局教育総務課への調査等を経て、5月26日付で結果が通知された。

結論は一部却下・一部棄却であった。

PTA会費徴収事務について、地方公務員法第35条違反は認められないと判断された。

また、委託契約の締結について、地方自治法第2条第14項に違反するとも認められなかった。

一方、職員給与支出に関する請求の一部は、対象となる支出の個別具体的な特定が不足しているとして、監査対象から除外された。

PTA加入意思確認の問題についても、主として非財務会計行為に関する問題として除外された。

これが、本件住民監査請求の概要である。

しかし、本件を評価する際には、単に棄却されたという結果だけを見てはならない。

請求を棄却するために、監査委員が何を根拠として持ち出したのか。

そして、

何を根拠として示せなかったのか。

そこに、今回の監査請求の本当の意味がある。

2 監査委員自身が認めた四つの事実

本件監査結果の最も興味深い点は、監査委員が、PTA会費の法的性質について重要な事実を明確に認めていることである。

監査結果18ページには、次の趣旨の認定がある。

第一に、PTAは滋賀県とは異なる私的団体である。

第二に、PTA会費は県の歳入歳出予算に計上されない私費である。

第三に、PTA会費の本来的な徴収権者はPTAである。

第四に、文部科学省の通知から、PTA会費を含む団体徴収金が学校徴収金に含まれるかどうかは、必ずしも明確に読み取れない。

この四点は、非常に重要である。

PTAは学校の内部組織ではない。

PTA会費は学校教育法上の授業料ではない。

県の歳入にもならない。

本来的な徴収権者はPTA自身である。

そして、国の学校徴収金関係通知からも、PTA会費の学校徴収を当然に導くことはできない。

ここまで認めているのである。

それならば、次に何を検証すべきなのか。

当然、学校がPTA会費徴収事務を引き受けられる法令上の根拠である。

ところが監査結果は、そこから公益性、一体処理、委任、校務分掌という説明へ進んでいく。

この時点で、審査の順序が問題になる。

本来的にPTAに帰属する事務であることを認めた以上、それを公立学校の事務として処理できる例外的な制度上の根拠を確認しなければならない。

しかし、監査委員は、事務の帰属を明確に認めた後、その帰属を変更し得る法的な説明を十分に示さないまま、実務上の事情を積み上げているのである。

3 滋賀県教育委員会自身の「明確な法的根拠は見当たらない」という説明

さらに重要な事実がある。

監査結果13ページに記録された、滋賀県教育委員会側の説明である。

学校徴収金の徴収根拠を確認された県教育委員会側は、授業料については学校教育法第6条及び滋賀県使用料・手数料条例を挙げた。

ところが、学校徴収金については、徴収に関する明確な法的根拠が見当たらない旨を説明している。

そのうえで、受益者負担、これまでの慣行、学校徴収金取扱要領などを挙げている。

この記録は重い。

ただし、正確に区別すべき点がある。

この説明は、教材費や修学旅行費などを含む学校徴収金一般についてのものであって、PTA会費だけを名指しして「法的根拠がない」と認定したものではない。

しかし、だからこそ、問題はさらに鮮明になる。

教材費や修学旅行費等については、少なくとも学校教育活動との直接的な関係から、学校設置者の責任や業務との結び付きを検討する余地がある。

一方、PTA会費は、独立した私的団体の会員関係に基づく金銭である。

学校徴収金一般について明確な徴収根拠が見当たらないと説明するのであれば、PTA会費については、その事務を学校が担う根拠を、より具体的に説明する必要があるはずである。

ところが、出てきたのは公益性や一体処理だった。

さらに興味深いのは、県教育委員会が、地方教育行政の組織及び運営に関する法律第24条の趣旨に鑑みて、学校徴収金取扱要領を制定したと説明していることである。

同条は、教育委員会及び地方公共団体の長が、所掌する事務を法令等に基づいて管理・執行すべきことを定める規定である。

その条文を挙げたからといって、本来PTAに帰属する会費徴収事務が新たに学校の事務になるわけではない。

法令に基づいて事務を処理すべきだという規定を持ち出しても、そもそもその事務を引き受けられる根拠を示したことにはならない。

この点にも、問題の本質が表れている。

4 三者契約という工夫――公私を分担したつもりでも、事務の帰属は変わらない

ここで、本件の中心となった三者契約の構造を詳しく見てみたい。

滋賀県、滋賀銀行、高P連。

この三者で契約を結び、徴収・収納に関する電算システムへのデータ入力、帳票作成、口座振替、収納状況の整理、集計結果の報告等を銀行に委託する。

県が基本台帳の作成等に係る費用を負担する。

高P連が月々の徴収業務等に係る費用を負担する。

公的主体と私的団体がそれぞれ一定の負担をすることで、一体的な徴収制度を維持する。

一見すると、合理的で巧妙な仕組みに見える。

しかし、そもそもなぜ、県立高校の授業料の徴収契約に、県とは別の私的団体である高P連が契約当事者として参加しているのだろうか。

なぜ、県が授業料とPTA会費等の私費を同一の徴収・収納制度で処理しているのだろうか。

ここに問題がある。

監査委員自身が、県と高P連の費用分担について、公費分と私費分を厳密に分けたものではないと認定している。

県は、私費を含む基本台帳の作成等に係る費用を負担していた。

高P連は、公費分を含む毎月の口座振替業務等の費用を負担していた。

つまり、公費と私費の性質によって費用を分離した仕組みではなかったのである。

契約の外形は三者に分かれている。

しかし、実際の事務は一体化されている。

しかも、県費職員がPTA会費徴収に関連する作業へ従事していた。

ここで、改めて最初の問いに戻る。

三者契約を結べば、なぜPTA固有の会費徴収事務を公立学校が公務として処理できることになるのか。

その根拠が説明されていない。

高P連が委託料の一部を負担しても、PTA会費の本来的な徴収権者はPTAのままである。

県が基本台帳を作成しても、会費債権の帰属は変わらない。

銀行が同じ電算システムで処理しても、授業料とPTA会費の法律上の性質が同じになるわけではない。

そして、契約当事者を三者に増やしたからといって、県立学校の所掌事務・業務が拡張されるわけでもない。

契約の構成を工夫することと、公的主体がその事務を引き受ける法令上の根拠を持つことは、別問題なのである。

5 「裏口」のつもりだったのか――三者契約の構造的限界

この三者契約が、法令上の制約を回避する意図で設計されたのかどうかは、現時点の資料だけでは確認できない。

したがって、県が意図的に脱法行為を行おうとしたと断定することはできない。

しかし、制度の構造を批判的に検証することはできる。

県とPTA側が費用を分担する。

銀行に徴収・収納業務を委託する。

学校職員が基礎情報の処理や収納確認に関与する。

校長はPTAから委任を受ける。

これによって、PTA会費徴収を学校徴収金の一部として処理する。

この仕組みを考案した側には、公私双方が参加し、費用も分担することで、学校徴収を合理的に継続できるという考えがあったのではないか。

そのように推測したくなる構造ではある。

しかし、どれほど巧妙に契約を組み立てても、解決できない問題がある。

そもそも、PTA会費徴収は誰の事務なのかという問題である。

本来的にはPTAの事務である。

では、なぜ学校が行うのか。

ここを説明しなければならない。

仮にPTA自身が銀行と契約して、自らの会員から会費を徴収するのであれば、それは通常の私的団体の会計事務である。

学校が関与しなくても処理できる。

ところが、そこへ公立学校を組み込み、学校職員の勤務時間や行政の徴収制度を利用するとなれば、公立学校側の法令上の所掌事務・業務を検証しなければならない。

三者契約は、この根本問題を解消しない。

三者契約にしても、四者契約にしても、PTA会費はPTA会費である。

外部の私的団体の会費徴収を、契約当事者の数や費用負担方法によって公務へ転換することはできない。

むしろ本件三者契約は、複雑な仕組みを構築した結果、学校とPTAの事務の境界線を一層分かりにくくしてしまったように見える。

そして、今回の住民監査請求は、その仕組みの根本的な問題を突いたのである。

6 三者契約を作り、その一体処理を公務性の根拠にする――二重の循環論法

本件監査結果で特に象徴的なのが、一体処理に関する判断である。

監査委員は、PTA会費が授業料等と一体的に徴収・収納されていることを重視した。

そして、その一体性を、PTA会費徴収事務が地方公共団体の事務と同一視し得る特段の事情として評価した。

しかし、考えてみてほしい。

まず、PTA会費を学校徴収金に組み込む。

次に、授業料とPTA会費を一体的に処理する三者契約を結ぶ。

さらに、その一体処理という実務が存在することを理由に、PTA会費徴収は公務と一体化していると判断する。

これは何なのだろうか。

自ら構築した事務処理の仕組みを、その仕組みの公務性を認める根拠として利用しているのである。

典型的な循環論法ではないか。

そもそも問題になっているのは、PTA会費を学校が授業料等と一緒に徴収できるのかということである。

その問いに対して、一緒に徴収しているから公務と同一視できると答える。

これでは、実務を作ったもの勝ちになってしまう。

学校徴収金取扱要領に記載する。

校務分掌に位置付ける。

銀行との契約に組み込む。

その実務があるから、学校の業務と一体化していると説明する。

しかし、一体化しているという事実は、一体化できる法令上の根拠を証明しない。

行政実務の存在は、行政権限の証明ではない。

三者契約という形式を作ったこと。

その契約に基づいて一体処理していること。

その一体処理を公務性の根拠にすること。

この一連の構造には、法令上の所掌事務・業務の検証を飛ばして、実務が実務を正当化する危うさがある。

契約によって一体処理を作り、その一体処理によって契約の公務性を説明する。

まさに二重の循環論法である。

7 授業料徴収者17人、PTA加入保護者26,957人――制度の実態は既に変わっていた

さらに興味深いのは、監査委員自身が認定した2025年度の数値である。

滋賀県公報14ページによれば、県立高校全体の状況は次のとおりである。

項目2024年度2025年度
口座振替件数57,963件47,287件
授業料徴収者数6,191人17人
学校預かり金対象者数28,547人28,145人
PTA加入保護者数27,514人26,957人

2025年度の授業料徴収者数は、県立高校全体で17人だった。

一方、PTA加入保護者数は26,957人である。

もちろん、対象者数をそのまま事務量や口座振替件数に換算することはできない。

また、2025年4月1日の契約締結時点と、授業料の実質無償化が進んだ後の状況は区別しなければならない。

しかし、少なくとも2025年度には、授業料の実際の徴収対象者が極めて小さくなっていた。

その状況において、なお授業料とPTA会費の一体処理が公務性を認める理由の一つとして用いられたのである。

もはや、何を中心とする徴収制度なのかという問題を考え直す必要があるのではないか。

授業料徴収事務と一体化しているから公務と同一視できる。

しかし、授業料徴収対象者は激減している。

それでも学校預かり金等の徴収は必要だから、制度を維持するという説明になる。

そこでさらに問われるのが、学校預かり金とPTA会費を同じ性質の金銭として扱ってよいのかということである。

学校教育活動に必要な教材費等と、外部団体であるPTAの会費は、発生原因も事務の帰属も異なる。

学校預かり金の処理が必要だからといって、PTA会費徴収まで当然に学校の事務になるわけではない。

ここでも、学校徴収金という大きな箱へ複数の費目を入れたことで、本来異なる法律関係が一体のものとして扱われている。

そして、その一体処理が公務性を認める理由として再利用される。

この循環こそ、今回の監査請求が明らかにした構造的な問題である。

8 2026年度は高P連から校長協会へ――契約当事者を変えても問題は残る

さらに、滋賀県は2026年度に三者契約の構成を変更している。

従来の高P連に代わり、滋賀県高等学校長協会が契約当事者となった。

県側は、すべての保護者がPTAに加入しているわけではない現状を踏まえ、学校預かり金等を管理する校長が構成員となる校長協会の方が、契約当事者として適切であると判断した旨を説明している。

また、PTA会員のみから会費を口座振替できるように変更したとも説明している。

ここにも興味深い問題がある。

従来の高P連を契約当事者とする仕組みを変更し、校長協会を加えた。

しかし、それによってPTA会費の本来的な徴収権者が変わったわけではない。

PTA会費が学校の金銭になったわけでもない。

PTA会費徴収が学校の法令上の所掌事務になったことを示すものでもない。

単に、契約当事者の構成が変わったのである。

会員と非会員を区別して徴収する方法へ改めたことには、誤徴収を防ぐうえで一定の意味がある。

しかし、加入意思確認の適正化と、学校がPTA会費を徴収できるかという問題は別である。

加入者を正確に把握したからといって、学校がその会費を公務として徴収できる根拠が生まれるわけではない。

契約相手方を変えても、会費の帰属と事務の帰属は変わらない。

本来問われているのは、誰と契約を結ぶのかではない。

なぜ学校がPTA会費を集めるのか、ということである。

滋賀県は、現行の徴収・収納システムについて、2026年度末で契約を終了する予定とも説明している。

2027年度以降の制度を検討するのであれば、この根本問題から考え直す必要がある。

9 「禁止規定がないからできる」――私人の自由と行政の所掌事務を混同していないか

ここから、監査委員の法的判断そのものを検証する。

監査委員は、地方公共団体の職員が私的団体から事務委任を受けることを特段規制する法令等は認められない旨を述べた。

しかし、ここで行政法の基本原理に戻る必要がある。

私人と行政は、法的な立場が異なる。

私人は、法令による禁止や制限に反しない限り、原則として自由に活動できる。

自分の団体を作る。

会費を集める。

会計業務を銀行に委託する。

他の私人へ事務を委任する。

こうした行為は、私的自治の範囲で広く認められる。

しかし、公立学校は私人ではない。

公立学校や教育委員会は、公的主体として、法令上の所掌事務・業務の範囲で活動する。

これは、法律による行政の原理に関わる基本的な問題である。

もちろん、行政のすべての事務について、個別具体的な法律の授権規定が必要だという意味ではない。

行政活動の性質によって、求められる法的根拠のあり方は異なる。

しかし、公立学校が私的団体の内部事務を組織として引き受け、職員の勤務時間や行政の徴収制度を使用して処理するのであれば、その事務が学校又は地方公共団体の業務として位置付けられることは説明されなければならない。

問うべきことは、禁止する規定があるかどうかではない。

何の所掌事務・業務として行えるのか、ということである。

この違いを曖昧にしてはならない。

禁止規定が見当たらないことは、積極的な事務処理権限の存在を証明しない。

PTAから委任されたという事実も、当然に行政の所掌事務を拡張するものではない。

本件では、監査委員自身がPTA会費徴収を本来的にはPTAに帰属する事務と認定している。

ならば、学校がそれを公務として引き受けられる根拠を確認すべきだった。

しかし、その代わりに禁止規定の不存在から議論が始まる。

本来の問いを、別の問いへ置き換えているのである。

10 旧自治省行政実例――「一般に」の二文字へ逃げ込む苦しさ

本件で、とりわけ象徴的なのが、昭和39年1月20日付自治給第14号「公務員法上の疑義について」の扱いである。

これは、熊本県教育委員会教育長からの照会に対する、当時の自治省行政局給与課長の回答である。

照会の内容は、県立学校におけるPTAや同窓会等の外郭団体の業務が、地方公務員法第35条にいう地方公共団体の職務に含まれるのかというものだった。

つまり、まさに学校とPTAの事務の境界線についての行政実例である。

回答は、具体的事情が明らかでないと断ったうえで、一般にPTAや同窓会等の任意団体の事務は地方公共団体がなすべき職務に含まれないと整理していた。

ところが、滋賀県教育委員会側は、ここにある「一般に」という言葉を取り上げた。

一般に含まれないということは、個別具体的な場合に例外があり得る。

学校教育と密接に関係する団体から委任を受けた会計事務は、その例外に当たるという趣旨の説明である。

何とも苦しい。

もちろん、「一般に」という表現がある以上、あらゆる例外の可能性を絶対的に排除しているとはいえない。

しかし、問題はそこではない。

例外があり得ることと、具体的な例外を認める法的根拠が存在することは別問題である。

一般に含まれない。

だから例外があるかもしれない。

学校はPTAと密接な関係がある。

だから今回が例外である。

このような説明では、肝心な部分が飛ばされている。

何が例外を成立させるのか。

どの法制度に基づいて学校の業務と位置付けられるのか。

なぜPTA固有の会費徴収を、公務として引き受けられるのか。

それを説明しなければならない。

しかも、PTAが学校と密接に関係することは、PTAにとって通常の性質である。

親と教師の協力団体であり、学校教育との関係が深いことは、もともとPTAの性格に含まれている。

それを特別な例外の根拠とするならば、通常のPTAと何が違うのかを説明しなければならない。

PTA一般に当てはまる事情を使って、PTA一般について示された原則の例外だと主張する。

これでは、原則と例外の区別そのものが曖昧になってしまう。

なお、この「一般に」という文言を例外の余地として解釈したのは、正確には滋賀県教育委員会側である。

監査委員は、その説明を記録したうえで、別途、東京高裁判決の判断枠組みを採用した。

この区別は重要である。

しかし、いずれにしても、例外的に公務として取り扱える法的根拠を具体的に示す必要があることには変わりがない。

言葉の中に例外の可能性を見つけても、それは例外を証明したことにはならないのである。

11 公益性という便利な言葉――社会に役立てば公務になるのか

監査委員は、PTAの公益性を詳細に説明している。

学校行事の支援。

学年懇談会。

地域の安全パトロール。

ラジオ体操。

教育環境の改善。

これらの活動が会員以外にも利益をもたらすことを理由に、PTAの公益性・公共性を認定した。

さらに、PTA会費の一部が学校教育や学校運営の支援に用いられることから、会費徴収事務にも一定の公益性・公共性があると判断した。

しかし、公益性のある団体の会費徴収が、なぜ公務になるのだろうか。

地域の自治会が防災活動を行う。

スポーツ団体が青少年の健全育成に貢献する。

福祉団体が社会的に有益な活動を行う。

これらの団体にも公益性はある。

しかし、その会員管理、会費請求、口座振替、未納者への連絡まで、当然に公務員が勤務時間中に行えるという結論にはならない。

PTAも同様である。

PTA活動の公益性と、PTAの内部事務が公務に属することは、別の命題である。

社会教育法第10条は、社会教育関係団体を、公の支配に属しない団体として定義している。

同法第3条第3項は、学校、家庭、地域の連携協力を促進することを定めている。

しかし、連携協力の促進と、社会教育関係団体の内部会計事務を学校が引き受けることは同じではない。

公的主体が民間団体を支援することと、その団体の会費債権を管理し、会員から徴収することも別である。

公益性は、行政の協力や支援を検討する事情にはなり得る。しかし、それだけで私的団体の内部事務を公務へ転換する根拠にはならない。

この区別を欠いたまま、PTAの社会的意義をいくら説明しても、学校が会費徴収を行える法的根拠の説明には到達しないのである。

12 校務分掌と校長の指揮監督――権限の配分と創設の混同

次に監査委員が重視したのは、校務分掌である。

県側の取扱要領やガイドラインに、学校徴収金の会計処理が校務の一環として位置付けられている。

東大津高校や草津東高校の校務分掌表にも、諸会費の経理や学校徴収金に関する事務が記載されている。

さらに、校長が職員を指揮監督している。

監査委員は、こうした事情を挙げ、公務性を認めるための指揮監督要件が満たされていると判断した。

しかし、ここでも順序が逆である。

学校教育法第37条第4項は、校長が校務をつかさどり、所属職員を監督することを定めている。

滋賀県立学校の管理運営等に関する規則第28条も、校務分掌について規定している。

しかし、校務を分担させる権限と、何を校務として引き受けられるかという問題は別である。

学校が本来担うことのできる業務を、校長が職員へ分担させる。

それは理解できる。

しかし、本来的にはPTAに帰属する内部事務を、校務分掌へ記載することによって、公務へ転換できるのか。

ここが問題なのである。

監査委員は、校務について必ずしも条例や規則で個別に定めることが必要ではないと説明している。

この一般論自体を否定する必要はない。

しかし、争点はそこではない。

校務分掌を内規で定められることと、その内規によってPTA固有事務を公務として取り込めることは、まったく別の問題である。

校務分掌に書いてあるから公務。

公務だから校務分掌に書いてある。

これもまた、循環論法になりかねない。

校長の指揮監督についても同じである。

校長が職員を指揮監督していることは、その職員が実際に校長の管理下で作業していることの説明にはなる。

しかし、そもそもその作業を公務として命じることができるのかという問題への回答にはならない。

まず、学校が行える事務なのか。

次に、誰が担当するのか。

そして、どのように指揮監督するのか。

この順序が必要である。

ところが監査結果では、後段の指揮監督や校務分掌の存在によって、前段の公務性を支えるような論理が使われている。

これでは、本来の検証順序が逆転している。

13 東京高裁判決を持ち出した。しかし、まったく違う法制度ではないか

そして、今回の監査結果で最も注目すべきなのが、引用判例である。

滋賀県監査委員は、東京高裁平成19年3月28日判決を引用した。

なお、監査結果の公表当初は判決日が平成19年10月4日と記載されていたが、2026年7月31日付滋賀県公報により訂正されている。

この事件は、埼玉県久喜市の職員が土地区画整理組合の事務所で業務に従事し、その給与支出等の適法性が争われた住民訴訟である。

第一審の東京地方裁判所は、職員の事務従事について職務専念義務等の趣旨に反すると判断し、給与支出に関する請求の一部を認容した。

これを東京高裁が覆した。

滋賀県監査委員は、その高裁判決が示した、外部団体の事務であっても一定の事情の下で地方公共団体の事務と同一視できるという判断枠組みを援用した。

しかし、東京高裁判決の原文を読むと、決定的な違いがある。

土地区画整理法には、地方公共団体による援助を予定した具体的な法令上の制度が存在していたのである。

土地区画整理法第75条は、組合等が都道府県知事や市町村長に対して、専門的知識を有する職員の技術的援助を求めることができる旨を定めている。

同法第123条第1項は、市町村長等による勧告、助言又は援助について定めている。

つまり、土地区画整理組合への行政の援助は、法律そのものが予定していた。

そして高裁は、職員が実際に行っていた仕事の内容を具体的に検証している。

市の補助金に関する事務。

県等から市への照会文書の処理。

建築物の新築等に関する許可事務。

市長への手紙やメールへの対応。

これらは、市が地方公共団体の立場で処理すべき固有事務であった。

さらに、換地計画や公共施設の引継ぎ等に関する事務について、土地区画整理法第123条第1項の援助事務に該当すると判断した。

裁判所は、単に公益性があるから公務と認めたのではない。

具体的な法律上の援助制度と、実際の職員の仕事内容との対応関係を確認していたのである。

ここが、滋賀県監査結果と決定的に異なる。

14 東京高裁は「法律に特別の定がある場合」と認定していた

さらに、東京高裁判決の重要な部分を確認してみたい。

高裁は、土地区画整理法第123条第1項に基づく援助事務について、法律に特別の定めがある場合に該当すると明示している。

つまり、地方公共団体がその事務を行える法律上の根拠を、具体的に確認していたのである。

さらに高裁は、仮に当該事務が市の固有事務又は同法上の援助事務に直接該当しないとしても、市の事務と同一視できる特段の事情があると判断している。

しかし、この仮定的な判断においても、土地区画整理法が地方公共団体による援助を公共事務として予定していることが重視されていた。

ここが非常に重要である。

滋賀県監査委員は、この判決の「特段の事情」という判断枠組みを利用した。

しかし、東京高裁判決では、その特段の事情を支える制度的な前提が存在していた。

法律上の援助制度がある。

市の固有事務との関係がある。

実際の職員の仕事内容も、それらに対応している。

それらを踏まえて、同一視できると判断したのである。

では、滋賀県の場合はどうか。

土地区画整理法第75条や第123条第1項に対応するような、学校によるPTA会費徴収を予定した法令は何か。

学校職員が行っていたPTA会費の請求、口座振替、収納確認、未納者への連絡は、何の学校固有事務又は法令上の援助事務に該当するのか。

その説明がない。

「特段の事情」という言葉だけを借りても、東京高裁判決が前提とした法律上の援助制度まで移植できるわけではない。

判例を引用すること自体が問題なのではない。

引用した判例が、目の前の事件にどのように適用されるのかを説明できていないことが問題なのである。

15 しかも東京高裁は、外部団体の事務を無制限に認めていない

東京高裁判決には、もう一つ重要な記述がある。

高裁は、問題となった職員が、市の固有事務及び土地区画整理法上の援助事務以外の事務に従事していたと認める証拠がないことも指摘している。

つまり、外部団体の事務所で働いていたから、その団体の内部事務をすべて公務として認めたという判決ではない。

実際の仕事が、市の固有事務や法律上の援助事務に当たるかを検証したのである。

一方、滋賀県のPTA会費徴収事務はどうか。

監査委員自身が、本来的にはPTAに帰属する事務だと認めている。

そして、学校職員がその会費徴収事務に従事していた事実も認めている。

ならば、東京高裁判決と同じ結論を導くには、なぜその事務が学校固有の事務又は法令上認められた援助事務として位置付けられるのかを、具体的に説明しなければならない。

ところが、監査委員が示したのは公益性や一体処理、委任、指揮監督だった。

それらは、東京高裁が確認した具体的な法制度上の根拠とは異なる。

東京高裁判決が公務性を認めるために確認した最も重要な部分が、滋賀県監査結果では十分に示されていないのである。

この違いを見れば、なぜ滋賀県監査委員がこの判決を引用したのかという疑問が生じる。

同じ「特段の事情」という言葉を使いたかっただけではないか。

そのような批判が出てくるのも無理はない。

もっとも、監査委員が実際にその意図で引用したかどうかは確認できない。

しかし、少なくとも公表された判断には、元の判決の制度的前提を本件へ対応させるための十分な説明がない。

判例の表現を引用することと、判例の法理を適切に適用することは、まったく別なのである。

16 地方自治法第235条の4――さらに重要な入口規制が残っている

ここで、今回の監査結果において十分に審査されていない、もう一つの重大な問題に移る。

地方自治法第235条の4である。

本件監査結果は、PTA会費が県の歳入歳出予算に計上されない私費であることを明確に認定している。

ならば、その私費を誰が収納し、誰が保管しているのかを確認しなければならない。

地方自治法第235条の4第2項は、債権の担保として徴するものを除き、地方公共団体の所有に属しない現金等について、法律又は政令の規定によらない保管を制限している。

これは、単に金銭の保管方法を定めた手続規定ではない。

地方公共団体が私人の現金を保管すること自体について、法律又は政令による根拠を求める規定である。

この規定と、地方公務員法第35条は別問題である。

職員がある事務に従事することについて、職務専念義務違反がないと判断されたとしても、それによって私人の現金を地方公共団体が保管できることにはならない。

ここを混同してはならない。

滋賀県の三者契約では、銀行が口座振替を行い、学校徴収金を各学校の諸会費口座へ振り込む仕組みが記録されている。

学校職員は、生徒コードの追記、口座登録内容の確認、収納状況の確認、未納者への連絡等に従事していた。

では、実際の金銭の帰属と管理はどうなっていたのか。

確認すべきは、少なくとも次の点である。

第一に、各学校の諸会費口座の名義人と預金債権の帰属である。

第二に、当該口座の管理権限、出金権限、資金の処分権限である。

第三に、県又は学校がPTA会費を地方自治法上の意味で保管していると評価できるのかという点である。

第四に、仮に保管しているのであれば、その保管を認める法律又は政令上の規定が何かという点である。

単に銀行が口座振替を行っているというだけで、県が私人の現金を保管しているとは断定できない。

また、学校職員が収納データを確認していることだけで、第235条の4第2項違反が成立するわけでもない。

口座の名義、預金債権の帰属、管理権限、現金保管の実態を確認する必要がある。

しかし、その確認が必要であるということと、監査結果によって適法性が確認されたということは別である。

本件監査結果は、第235条の4第2項の要件に即して、PTA会費の保管実態と法令上の根拠を十分に検証したものではない。

したがって、地方公務員法第35条違反を否定したことによって、第235条の4第2項の問題まで解消されたと考えることはできない。

17 三者契約も委任状も、地方自治法第235条の4の代わりにはならない

この規定が特に重要なのは、監査委員が公務性を認めるために持ち出した説明とは、異なる法的要件を定めていることである。

公益性がある。

しかし、それは第235条の4第2項の保管根拠ではない。

保護者の利便性が高い。

しかし、それも同じである。

PTAから校長へ委任されている。

しかし、委任契約は法律又は政令ではない。

三者契約を締結している。

しかし、三者契約そのものが、同条第2項の保管制限を解除するわけではない。

校務分掌に記載されている。

しかし、校務分掌も法律又は政令の代わりにはならない。

ここで注意したいのが、地方自治法第235条の4第3項である。

同項には、法令又は契約に特別の定めがある場合に関する規定が存在する。

しかし、これは歳入歳出外現金の利子の取扱いに関する規定である。

第3項の契約に関する文言を、第2項の私人現金の保管を認める根拠と取り違えてはならない。

第2項と第3項は、規律する対象が異なる。

また、滋賀県財務規則や学校徴収金取扱要領が存在するからといって、それだけで第235条の4第2項が求める法律又は政令上の根拠が満たされるわけでもない。

内部規則による事務処理手続の整備と、法令上の保管権限の存在は別問題である。

私人の現金を地方公共団体が保管することを法律又は政令が認めているのか。

同条第2項が適用される保管実態があるのであれば、問われるのはこの点である。

一体処理しているからよい。

委任されたからよい。

校長が認めているからよい。

そうした説明では、同条第2項の入口を当然に通過できるわけではないのである。

18 実は2023年、国の地方分権改革でも同じ問題が議論されていた

この地方自治法第235条の4をめぐっては、滋賀県監査よりも前に、国で重要な議論が行われていた。

2023年の地方分権改革に関する提案募集である。

指定都市市長会は、学校給食費以外の学校徴収金について、地方公共団体が歳入歳出外現金として取り扱えるようにする制度改正を提案した。

この提案は、学校徴収金の公会計化や徴収・管理の効率化を進める際、地方自治法第235条の4による私人現金の保管制限が問題となることを背景としていた。

学校が保護者から集める金銭には、教材費、修学旅行費、その他さまざまな費目がある。

それらを地方公共団体がまとめて徴収・管理しようとしても、自治体の所有に属さない金銭については法令上の制限がある。

そこで、その取扱いを可能にする制度整備が提案されたのである。

2023年7月20日の第153回地方分権改革有識者会議・提案募集検討専門部会では、文部科学省と総務省を交えた具体的なやり取りが行われた。

この議事概要は、今回の滋賀県監査結果を検証するうえで極めて重要な資料である。

なぜなら、国の会議では、まさに公的主体が私人の現金をどのような法的根拠で取り扱えるのかという問題が、正面から議論されていたからである。

19 総務省は「法律又は政令が必要」と説明していた

第153回専門部会の議事概要15ページには、重要なやり取りが記録されている。

大橋部会長は、自治体が自分の所有ではない現金を保管する場合には、法律又は政令による位置付けが必要であることを指摘した。

そして、教材費、修学旅行費、PTA会費、部活動費等について、どこまでを公会計化の対象とするのか、制度上の整理を求めた。

これに対して文部科学省は、PTA費や部活動費は種類が違うものであり、一律の取扱いが学校現場になじむのか、慎重に検討する必要があるという趣旨を説明した。

さらに総務省は、地方自治法の立場から、自治体に属さない現金は原則として自治体が保管すべきではなく、法律又は政令に基づく例外があると説明した。

そして、歳入歳出外現金として取り扱う制度が必要なのであれば、法律又は政令を整備すべきであるという立場を示している。

この議論は、極めて明快である。

私人の金銭を地方公共団体が取り扱う場合、単に便利だからよいという話にはならない。

法律又は政令上の根拠が必要だというのである。

さらに、何を自治体に属さない金銭であっても取り扱えるものとするかについて、原則としてそれぞれの所管法令の中で定める必要があるという説明もなされている。

ここに、国の法的整理の基本的な考え方が示されている。

何を、どの法令に基づいて取り扱えるのか。

この問いから始めているのである。

滋賀県監査委員が公益性や一体処理、委任、校務分掌を積み重ねたことと比べると、その違いは際立っている。

しかも、この国の議論ではPTA会費が具体的に挙げられていた。

2023年の段階で、PTA会費と教材費等を同列に扱えない問題が、国の制度検討の場で既に認識されていたのである。

20 学校徴収金という名称で、法的性質の異なる金銭をまとめてよいのか

この地方分権改革の議論から、もう一つ重要なことが分かる。

学校徴収金という言葉は、学校が保護者から徴収しているさまざまな金銭を、実務上まとめて呼ぶ場合に用いられる。

しかし、そこに含まれるすべての金銭が、同じ法的性質を持つわけではない。

授業料。

教材費。

修学旅行費。

学校指定品の購入費。

部活動費。

PTA会費。

これらは、それぞれ発生原因、債権者、支払先、事務の帰属が異なる。

例えば、授業料は学校教育法第6条等に根拠を持つ。

教材費や修学旅行費は、学校教育活動との関係から学校設置者の責任を検討することができる。

一方、PTA会費は、任意団体の会員関係に基づいて発生する会費である。

PTAが学校教育を支援しているとしても、それだけでPTA会費が学校教育法上の経費と同じ性質になるわけではない。

滋賀県では、取扱要領によってPTA会費を団体徴収金として学校徴収金の一部に分類していた。

しかし、これは県の内部的な取扱区分である。

その分類によって、PTA会費の本来的な帰属や徴収権者が変わるわけではない。

「学校徴収金」という名称に含めることと、公立学校が徴収できる法的根拠が存在することは同じではない。

ここでも、名称や事務処理方法が、法的な事務の帰属を覆い隠している。

だからこそ、学校徴収金という大きな箱から、各費目の法的な性質を取り出して検証する必要がある。

PTA会費については、その本来の徴収主体がPTAであるという原則から出発しなければならないのである。

21 2025年、文部科学省の通知にも変化が現れる

国の制度整理は、2023年の地方分権改革で終わったわけではない。

2025年4月30日、文部科学省は、7初財務第3号「学校徴収金の公会計化等の取組の一層の推進について」を発出した。

この通知は、2023年の地方分権改革における議論を踏まえたものである。

学校徴収金について、地方公共団体による公会計化を推進するとともに、学校を経由せず、保護者と業者等との間で直接支払う方法も示している。

重要なのは、その根拠と対象である。

通知では、教材費や修学旅行費等について、学校設置者は学校教育法等の規定により、当該学校教育活動に対する責任を有していることから、地方公共団体の公会計で取り扱うことが可能であると整理している。

つまり、学校設置者の学校教育活動に対する責任と、対象費目との関係を説明しているのである。

そして、通知の脚注に示された学校徴収金の主な費目には、PTA会費が含まれていない。

教材費、入学時一括購入品費、調査関係経費、卒業諸費、修学旅行費、校外活動費、芸術鑑賞費、日本スポーツ振興センター掛金等が挙げられている。

しかし、PTA会費はない。

もちろん、この通知によって文部科学省が学校によるPTA会費徴収を明文で禁止したとまではいえない。

しかし、だからといってPTA会費の学校徴収が認められたわけでもない。

重要なのは、学校教育活動に対する設置者の責任を根拠として、公会計化の対象を整理していることである。

学校教育に必要な経費と、私的団体の内部会費を、同じ法的根拠によって取り扱えるわけではない。

この方向の整理が、既に2025年には示されていたのである。

22 校務DXチェックリストからPTA会費が消えた――しかも四費目が整理された

さらに興味深い変化がある。

文部科学省の「GIGAスクール構想の下での校務DXチェックリスト」である。

令和6年度版では、学校徴収金を口座振替等で徴収しているかを確認する質問8において、PTA会費が学校徴収金の例示に含まれていた。

費目別の徴収方法を確認する質問8-2の選択肢にも、PTA会費が存在した。

つまり、令和6年度版では、学校がPTA会費を徴収している実務が、校務DXの進捗確認の対象に含まれていた。

ところが、令和7年度版では、その内容が変更された。

具体的には、次の四費目が学校徴収金の説明から削除されている。

  • 学年・学級活動費
  • 児童生徒会費
  • 部活動費
  • PTA会費

そして、質問8-2の費目別選択肢からも同じ四費目が削除された。

単にPTA会費という文字が偶然消えたのではない。

学校徴収金の説明と、費目別回答の選択肢の双方から削除されているのである。

さらに、令和7年度版に残された費目は、2025年4月30日の文部科学省通知が脚注で整理した費目と対応している。

このことから、文科省通知と校務DXチェックリストの対象費目が整合する方向で整理されたと読むことができる。

ただし、公開資料において、文部科学省が「PTA会費を学校徴収金から除外するために改訂した」と明記しているわけではない。

また、令和7年度版にも、学校から保護者への提出資料の例としてPTA関係の委任状が残されている。

したがって、この変更だけで学校によるPTA会費徴収が法的に禁止されたと断定することはできない。

しかし、少なくとも次の事実は明白である。

令和6年度版では、PTA会費が学校徴収金の例示に含まれていた。

令和7年度版では、その例示から削除された。

しかも、回答選択肢からも削除された。

そして、変更後の費目は、学校教育活動との関係に基づく文科省通知と対応している。

学校徴収金として一括りに扱ってきた費目について、国の行政資料上で整理が進んでいたのである。

2026年3月に公表された令和7年度版チェックリストは、滋賀県監査委員が同年5月に判断を示す以前に存在していた。

この時系列も重要である。

23 2026年3月、個人情報保護委員会は「学校側の所掌事務」を出発点とした

そして、もう一つ重要な資料がある。

2026年3月、個人情報保護委員会が公表した「公立学校とPTAの間で個人情報のやりとりをするためのポイント」である。

この資料は、2026年3月25日の第353回個人情報保護委員会で取り上げられた。

注目すべきは、学校が管理する保護者の口座情報を利用して、PTA会費を徴収する場面を具体的な例として扱っていることである。

これは、滋賀県の住民監査請求と直接重なる問題である。

さらに重要なのは、資料が示した検討の出発点である。

個人情報保護委員会は、まず学校業務の根拠法令を確認し、法令の定める所掌事務又は業務の範囲内で、個人情報の利用目的を特定するよう示している。

これは個人情報保護法第61条に基づく整理である。

つまり、公立学校がPTA会費徴収のために個人情報を保有・利用する場合、まず学校が何の業務としてその情報を取り扱っているのかが問題になる。

生徒の氏名。

保護者の氏名。

銀行口座情報。

請求額。

収納状況。

未納情報。

これらをPTA会費徴収のために取り扱うのであれば、学校がどのような業務として、その情報を保有・利用するのかを明らかにしなければならない。

ここで最初から本人同意の有無を問題にしてはならない。

学校がその事務を行える根拠と、個人情報をどの目的で取り扱えるかという問題が先にあるからである。

「PTA会費徴収のため」と利用目的に記載するだけで、学校の法令上の所掌事務・業務が生まれるわけではない。

この点は、極めて重要である。

滋賀県監査委員は、公益性、一体処理、委任、校務分掌、指揮監督によって公務性を認めた。

一方、個人情報保護委員会は、学校が個人情報を取り扱う業務の根拠法令と所掌事務・業務の範囲を、利用目的特定の前提として示している。

ここには、検討順序の明確な違いがある。

24 個人情報保護法第69条――「同意があればよい」では済まない

個人情報保護委員会の資料では、同法第69条による利用・提供の制限についても説明されている。

学校が特定した利用目的のために保有個人情報を利用・提供する場合には、同条第1項との関係が問題となる。

一方、利用目的以外の目的で保有個人情報を利用・提供することは、原則として制限される。

同条第2項には、本人同意がある場合や特別の理由がある場合など、一定の例外が定められている。

しかし、個人情報保護委員会は、こうした例外について、臨時的な利用・提供が行われる場合の規定であると説明している。

ここが重要である。

PTA会費の請求。

毎年度の口座振替。

会員・非会員の識別。

収納状況の確認。

未納者への連絡。

これらは、通常、反復継続的に行われる事務である。

したがって、学校が毎年度PTA会費を徴収するために保護者情報を使用する仕組みについて、臨時的な目的外利用・提供の例外だけで説明しようとすれば、その継続性との関係が問題になる。

また、最初から利用目的にPTA会費徴収を記載しておけばよいという話でもない。

その利用目的が、学校の法令上の所掌事務・業務の範囲に位置付けられることが必要だからである。

学校の業務の根拠を確認する。

その範囲内で利用目的を特定する。

そのうえで、目的内利用なのか、目的外利用・提供なのかを判断する。

必要に応じて、第69条第2項の例外要件を検討する。

この順序が求められる。

PTAからの委任や保護者の同意を、学校の所掌事務・業務の代わりにしてはならない。

本人同意があれば、学校がPTAの内部事務を自由に処理できるということではないのである。

ここでも、滋賀県監査結果の判断だけでは解決できない法律問題が残る。

25 地方自治法235条の4と個人情報保護法61条――二つの入口が明確になった

国の資料を横断的に見ると、二つの重要な入口規制が浮かび上がる。

一つは、地方自治法第235条の4第2項である。

地方公共団体が私人の現金を保管する場合には、法律又は政令上の根拠を確認する必要がある。

もう一つは、個人情報保護法第61条である。

公立学校が個人情報を保有する場合には、法令上の所掌事務又は業務の範囲と、利用目的の特定が問題になる。

この二つは、規律する対象も法的要件も異なる。

しかし、共通点がある。

どちらも、公益性や利便性を積み重ねるだけでは通過できないということである。

PTAから校長への委任があるからといって、私人の現金を法律又は政令によらず保管できることにはならない。

保護者の同意があるからといって、学校の所掌事務・業務が新たに生まれるわけでもない。

校務分掌に記載したからといって、PTA固有の内部事務が当然に公務になるわけでもない。

だからこそ、検証の順序が重要になる。

まず、誰の事務なのか。

次に、なぜ学校がその事務を行えるのか。

そのうえで、どの個人情報を何の目的で利用できるのか。

さらに、私人の現金を取り扱う場合には、誰がどのような権限で保管しているのか。

この順序で確認する必要がある。

地方公務員法第35条違反を否定したというだけで、これらの入口規制をすべて通過したことにはならない。

滋賀県監査結果を、学校によるPTA会費徴収全般の包括的な適法判断として扱うことはできないのである。

26 2023年から2026年まで――国の制度整理は既に大きく動いていた

ここまでの流れを、時系列で整理してみたい。

2023年。

地方分権改革の議論において、総務省は私人の現金保管について法律又は政令上の根拠が必要だと説明した。

文部科学省も、PTA費や部活動費は教材費等とは種類が異なることを認めていた。

2025年4月。

文部科学省は、学校徴収金の公会計化等について、学校設置者の学校教育活動に対する責任を根拠とした整理を示した。

その通知の対象費目にPTA会費は含まれていなかった。

2026年3月。

文部科学省の校務DXチェックリストでは、学校徴収金の説明と回答選択肢から、PTA会費を含む四費目が削除されていた。

同じ2026年3月。

個人情報保護委員会は、公立学校とPTAの個人情報の取扱いについて、学校側の根拠法令と所掌事務・業務の確認を出発点とする資料を公表した。

そして2026年5月。

滋賀県監査委員は、PTA会費徴収の公務性について、公益性、一体処理、委任、校務分掌、指揮監督という事情を積み重ね、東京高裁判決を引用して判断を示した。

この時間軸を並べると、強い違和感がある。

国の制度整理では、何の法令上の根拠で事務を行うのか、何の金銭を保管できるのか、何の利用目的で個人情報を取り扱えるのかという問題が、具体的に検討されていた。

一方、滋賀県監査結果では、従来の学校徴収実務の一体性や公益性が重視されている。

国の制度整理が法令上の事務帰属を具体的に問い始めていたのに、滋賀県監査結果は従来の実務上の一体性に依存した説明を続けていたのである。

もちろん、監査委員がこれらの資料を実際に知らなかったのかどうかは分からない。

また、住民監査請求の対象が財務会計行為に限定されることから、個人情報保護法上の問題まで全面的に判断しなければならない制度ではない。

しかし、少なくとも監査結果の論証には、こうした国の制度整理を踏まえてPTA会費徴収の事務帰属を再検証した形跡が十分には見られない。

この点は、時代的な変化との関係で厳しく問われるべきである。

27 既にフェーズは変わっている――学校とPTAの一体運営を当然視できる時代ではない

学校とPTAの関係は、長年にわたって、両者が密接に協力することを前提として運営されてきた。

学校がPTA会費を徴収する。

学校がPTAの名簿を管理する。

学校が役員選出に関する情報を取り扱う。

学校職員がPTA会計に関与する。

それらが慣行として定着し、校務分掌や学校徴収金取扱要領に組み込まれてきた。

しかし、今はそのような慣行だけでは説明できない問題が次々に表面化している。

PTAへの任意加入。

会員と非会員の区別。

学校保有個人情報の目的外利用・提供。

学校による会費徴収。

公費と私費の混在。

教職員による私的団体事務への従事。

そして、地方自治法第235条の4による私人現金の保管制限。

こうした問題について、個別の法令に即して確認する必要性が高まっている。

さらに、文科省の学校徴収金政策、校務DXチェックリスト、個人情報保護委員会資料の変化を見ると、国の行政資料においても、学校とPTAの事務を同一視することが当然ではないという方向が見えてくる。

もちろん、これらの資料によって学校徴収が全面的に禁止されたと断定することはできない。

しかし、少なくとも従来の実務を当然視し、保護者の利便性や学校教育との関連性だけで説明することは、ますます難しくなっている。

学校とPTAの関係を、慣行と善意で処理する段階から、法令上の所掌事務・業務と責任の所在を検証する段階へ移す必要がある。

この意味で、フェーズは大きく変わっている。

それにもかかわらず、滋賀県監査結果は、従来の学校・PTA一体運営を前提とする説明に依存しているように見える。

その時代的なずれも、今回の監査結果を批判的に検証する理由の一つである。

28 ここまでの屁理屈を必要としたこと自体、監査請求が急所を突いたのではないか

ここで、今回の住民監査請求そのものを、もう一度評価したい。

形式的な結果は一部却下・一部棄却である。

しかし、その結論に至るために監査委員が示した説明を振り返ると、別の評価が浮かび上がる。

PTAが私的団体であることは認めた。

PTA会費が私費であることも認めた。

本来的徴収権者がPTAであることも認めた。

そのうえで学校徴収を公務と同一視するため、公益性、一体処理、委任、校務分掌、指揮監督を持ち出した。

旧自治省行政実例の「一般に」という言葉から例外を見いだす県教育委員会側の説明まで登場した。

さらに、法制度の異なる東京高裁判決まで引用された。

しかし、肝心の法令上の所掌事務・業務については、明快な説明が示されていない。

なぜ、ここまで多くの事情を必要としたのだろうか。

それは、請求人が周辺的な問題ではなく、学校徴収という制度の根本を問い直したからではないか。

「そもそも、それは誰の事務なのか」

この問いである。

もし学校がPTA会費を徴収できる法令上の根拠を明確に説明できるのであれば、それを示せばよかった。

しかし、監査結果では、事務の帰属を明確に説明する代わりに、周辺事情が積み上げられた。

そして、実務の存在を実務の公務性の根拠とする循環論法まで現れた。

これは、監査請求が問題の急所を突いたことの裏返しではないだろうか。

もちろん、反論の数が多いことだけで、相手の判断が誤っていると証明されるわけではない。

しかし、本件で重要なのは、説明の数ではなく、その内容である。

核心的な法的接続を示さず、周辺事情や別事件の判決によって結論を支えようとしている。

その説明の苦しさこそ、請求人が投げかけた問いの重要性を浮かび上がらせている。

ここまでの説明を必要としたこと自体が、請求人が制度の根本的な弱点に迫ったことを示しているのではないか。

29 結論が先にあったのではないか――監査結果の論証構造が示すもの

本件監査結果を読み通すと、ある疑問が残る。

判断の順序が逆になっていないだろうか。

本来であれば、まずPTA会費徴収が誰の事務なのかを確認する。

次に、学校がその事務を行える法令上の根拠を確認する。

そのうえで、職員の従事、委託契約、個人情報の利用、私費の取扱い、費用負担の合理性を検証する。

ところが本件では、既存の学校徴収制度が先に存在している。

三者契約がある。

学校徴収金取扱要領がある。

校務分掌がある。

PTAからの委任がある。

その実務を前提として、公務性を認めるための事情が積み上げられているように見える。

根拠から結論へ進んだのではなく、既存の結論を維持するために根拠らしきものを後から探したのではないか。

そのような疑問を抱かせる論証構造なのである。

監査委員が実際に最初から棄却を決めていたかどうかは分からない。

しかし、重要なのは内心ではない。

公表された判断の論理である。

既存実務を肯定する方向が先にあり、その実務を公務として説明するために周辺事情を積み上げたように見える。

この構造については、「結論ありき」と批判されても仕方がないのではないか。

行政の適法性を審査する制度が、既存の行政実務を正当化する理由を探す場になってはならない。

監査委員の役割は、従来の実務が存在することを確認することではない。

その実務が法令及び財務会計上の責任に照らして適切であるかを、独立して検証することである。

30 なぜここまでして認める必要があったのか――全国への波及という問題

さらに考えたいのは、本件監査結果が全国に持ち得る影響である。

仮に滋賀県監査委員が、学校によるPTA会費徴収について、法令上の事務処理権限を確認できないと判断したら、どうなっただろうか。

当然、滋賀県内の同種の学校実務について再検証が必要になり得る。

しかし、問題は県内だけでは終わらない。

全国には、学校がPTA会費を徴収し、学校職員が会員情報や収納状況を取り扱い、学校徴収金制度へPTA会費を組み込んできた自治体が存在する。

滋賀県で原則的な判断が示されれば、それらの実務にも同じ問いが向けられる。

PTAから校長への委任。

学校徴収金との一体処理。

校務分掌への記載。

教職員による未納管理。

学校保有情報の利用。

これらについて、各自治体がそれぞれの法令上の根拠を説明しなければならなくなる。

その影響は大きい。

では、滋賀県監査委員は、全国の教育行政への波及や、他自治体からの反発を懸念して既存実務を肯定したのだろうか。

そのような動機を直接示す資料はない。

したがって、全国の教育行政からの反発を恐れたことが、判断の理由だったと断定することはできない。

しかし、同種実務が広範囲に存在していれば、その法的根拠を否定する方向の判断が全国に波及することは十分に考えられる。

そして、従来の制度を見直す影響が大きいほど、既存実務を維持する方向への構造的な圧力が生じ得る。

これは、個々の監査委員の動機とは別の制度的な問題である。

全国に同じ仕組みが存在するからこそ、法令上の根拠を厳密に確認する必要がある。

実務が広がっていることは、その実務が適法であることの証明ではない。

まして、全国で長年行われているからという事情を、公務性の根拠として扱ってはならない。

31 住民監査請求の限界――根本問題が財務会計行為へ変換される

今回の監査結果は、住民監査請求という制度の限界も明らかにした。

地方自治法第242条に基づく住民監査請求は、行政活動全般の適法性を包括的に審査する制度ではない。

公金の支出、契約の締結、財産の管理等、財務会計上の行為を対象とする制度である。

そのため、学校がPTA固有の事務を処理していること自体に問題があっても、それだけで当然に住民監査請求の対象となるわけではない。

財務会計行為との関係を示す必要がある。

本件では、学校職員がPTA会費徴収事務に従事したことによる人件費相当額が問題とされた。

しかし、監査委員は、対象となる給与支出が個別具体的に特定されていないとして、その部分を監査対象から除外した。

また、PTA加入意思確認の問題についても、主として非財務会計行為に関するものとして除外した。

つまり、学校とPTAの公私関係という根本問題を問おうとしても、住民監査請求では、財務会計行為の特定とその違法性の問題へ変換しなければならない。

そして仮に学校職員のPTA事務従事に問題があったとしても、そのことが特定の給与支出の違法性へ直ちに結び付くとは限らない。

この制度的な制約は重要である。

住民監査請求は、公私分離の問題を明らかにする有力な手段にはなり得る。

しかし、その問題全体に直接決着を付けるための制度ではない。

本件は、その限界を浮き彫りにした。

さらに、地方自治法第235条の4、個人情報保護法第61条・第69条、PTA加入契約の成立などは、今回の監査結果によって全面的に判断されたわけではない。

住民監査請求が棄却されたことと、学校によるPTA会費徴収全般が適法と確認されたことは、同じではない。

この区別は、今後の全国の行政対応においても重要である。

32 棄却された。しかし、今回の監査請求が引き出したものは大きい

では、本件の住民監査請求は失敗だったのだろうか。

そう単純には評価できない。

なぜなら、今回の監査請求によって、重要な事実と行政側の説明が正式な公文書に記録されたからである。

PTA会費は私費である。

本来的徴収権者はPTAである。

学校職員が会費徴収事務に従事していた。

公費と私費の徴収・収納が一体化されていた。

県と高P連の費用負担は、公費・私費の性質に応じて分離されたものではなかった。

学校徴収金一般について、県教育委員会側は明確な徴収根拠が見当たらないと説明した。

旧自治省行政実例の「一般に」という言葉を使って、例外を認める説明が示された。

監査委員は公益性、一体処理、委任、校務分掌、指揮監督によって公務性を認めた。

その判断のために、東京高裁判決が引用された。

しかし、その判決が前提とした具体的な法律上の援助制度と、PTA会費徴収との対応関係は十分に示されていない。

さらに、地方自治法第235条の4の私費保管規制や、個人情報保護法第61条・第69条との関係については、別個の検証が必要であることも明らかになった。

ここまでの事実と論点が、今回の監査請求によって可視化された。

これは重要である。

形式上は棄却。しかし、学校徴収を公務として認めるために行政がどのような説明に依存しているのかが、公的な記録として残ったのである。

請求人が投げかけた問いは、監査結果によって解消されなかった。

むしろ、その問いへ答えることの難しさが、公的文書の中で浮き彫りになった。

その意味で、今回の監査請求には大きな成果がある。

33 もはや、屁理屈を一つずつ論破する段階ではない

ここまで見てきたとおり、本件監査結果には、さまざまな説明が登場する。

公益性。

一体処理。

委任。

校務分掌。

指揮監督。

保護者の利便性。

事務効率。

学校教育との関連性。

旧自治省行政実例の例外。

東京高裁判決の特段の事情。

しかし、本当に必要な説明は一つである。

PTA会費徴収は誰の事務であり、なぜ公立学校がそれを行えるのか。

この問いに答えればよい。

それが明確でないまま、公益性や利便性の説明を繰り返しても問題は解決しない。

一体処理しているという事実を何度強調しても、一体処理できる法令上の根拠が生まれるわけではない。

校務分掌に記載したことをいくら説明しても、学校の所掌事務・業務そのものが当然に拡張されるわけではない。

東京高裁判決を引用しても、その判決が前提とした法律上の制度が本件に存在することにはならない。

根拠にならない事情を100個積み上げても、1万個積み上げても、行政の事務処理権限は生まれないのである。

ここまで多くの説明を必要としたこと自体が、今回の監査請求の突いた問題の深さを物語っている。

34 解決策は、驚くほど単純である

ここまで複雑な法的説明を繰り返してきたが、問題の解決策そのものは決して複雑ではない。

PTAは学校とは別の任意団体である。

PTA会費はPTAの会費である。

PTAが加入を希望する者から明示的な加入意思を確認する。

PTAが自ら会員情報を取得する。

PTAが自ら会費を請求し、徴収する。

未納管理も会計処理もPTA自身が行う。

ただ、それだけである。

この仕組みに移行すれば、学校がPTA会費徴収を公務として行えるかという問題の多くを回避できる。

学校が会員と非会員を識別する必要性も減る。

学校保有個人情報をPTA会費徴収へ転用する必要もなくなる。

学校職員がPTA会費の未納者へ連絡する必要もなくなる。

学校徴収金の制度へPTA会費を組み込む必要もなくなる。

学校による私費保管や公私会計の混在をめぐる問題も、大幅に整理できる。

そして、PTAの加入は、保護者本人の自由な意思に委ねられる。

会費や活動内容に価値を感じる保護者が加入する。

加入者から得られた会費と協力の範囲で、PTAが活動する。

会員が減少すれば、活動内容や会費額を見直す。

必要であれば、他の団体と同じように、会員の支持に応じて組織の規模を調整する。

これは、任意団体として自然な仕組みである。

いわば、加入者の選択に応じて活動内容を調整する仕組みへ戻すということである。

そのような制度にすれば、学校がPTAの内部事務を肩代わりし、任意団体であるはずのPTAを行政実務の中へ組み込んでおく必要もなくなる。

複雑なのはPTAの会費徴収ではない。本来PTAが行う事務を、あえて学校が引き受けようとするから、説明が複雑になるのである。


結論――これほどの屁理屈を必要としたことが、何より雄弁である

滋賀県住民監査請求は、形式上は一部却下・一部棄却された。

しかし、この監査結果が明らかにしたことは大きい。

PTAは私的団体である。

PTA会費は私費である。

本来的徴収権者はPTAである。

監査委員自身が、そこまでは明確に認めた。

さらに、県教育委員会側は、学校徴収金一般の徴収について、明確な法的根拠が見当たらない旨を説明していた。

それにもかかわらず、監査委員は、学校によるPTA会費徴収を公務と同一視できるという結論に至った。

そのために持ち出されたのが、公益性、一体処理、委任、校務分掌、指揮監督だった。

旧自治省行政実例では「一般に」という言葉から例外を導く説明が登場した。

さらに、土地区画整理法上の援助制度を前提とした東京高裁判決が引用された。

しかし、その判決と本件PTA会費徴収の法制度上の対応関係は、十分に示されていない。

そして、学校が一体処理しているという事実を、公務性を認める理由として用いる循環論法が残った。

さらに三者契約という仕組み自体が、問題を複雑化させていた。

県、高P連、銀行で契約を結ぶ。

公費と私費を含めて一体的に徴収する。

学校職員がPTA会費徴収に関係する事務へ従事する。

そして、一体処理していることを理由に公務性を認める。

契約によって一体処理の仕組みを作り、その一体処理の存在によって契約の公務性を説明する。

この二重の循環こそ、本件監査結果における最も象徴的な問題の一つである。

しかし、三者契約にしても、四者契約にしても、PTA会費はPTA会費である。

外部の私的団体の内部事務であることに変わりはない。

さらに、地方自治法第235条の4第2項という、私人の現金保管に関する別個の入口規制も残っている。

地方公務員法第35条違反を否定したからといって、この問題が解決するわけではない。

個人情報保護法第61条・第69条についても同じである。

学校が何の所掌事務・業務として個人情報を利用できるのか、その検証は独立して必要である。

しかも、国の制度整理は既に進んでいた。

2023年には、地方分権改革において総務省が私人の現金保管に法律又は政令上の根拠を求めていた。

2025年には、文部科学省が学校教育活動への設置者責任を根拠として学校徴収金の公会計化を整理していた。

2026年3月には、校務DXチェックリストからPTA会費を含む四費目が削除された。

同じ2026年3月には、個人情報保護委員会が学校側の根拠法令と所掌事務・業務の確認を明示していた。

国の制度整理は、既に「学校がこれまで何をしてきたか」から、「学校が法令上何を行えるのか」という問題へ焦点を移し始めていたのである。

その流れの中で、滋賀県監査委員は、従来の学校徴収実務の公益性や一体性を重視した判断を示した。

この対比は、何とも象徴的である。

行政実務が存在するから公務なのではない。

公務として行える法令上の根拠があるから、行政がその事務を行うことができるのである。

その基本的な順序が、今回の監査結果では十分に貫かれていない。

そして、今回の監査請求は、まさにその急所を突いた。

学校がPTA会費を徴収できる法令上の根拠は何か。

請求人は、この単純で根本的な問いを突き付けた。

監査委員は棄却という結論を示した。

しかし、その結論のために、これほど多くの周辺事情と、法制度の異なる裁判例を持ち出さなければならなかった。

そのこと自体が、請求人の問いの重要性を物語っているのではないか。

住民監査請求の制度には限界がある。

財務会計行為の特定という問題があり、学校とPTAの公私関係全体に直接決着を付ける制度ではない。

それでも、今回の請求によって、学校徴収を公務として説明するために行政が何を持ち出したのかが、公的な文書として明らかになった。

そして、その説明の弱点も浮かび上がった。

さらに、この問題は滋賀県だけにとどまらない。

全国の公立学校が、PTA会費の徴収や会員管理を学校業務として処理してきたのであれば、同じ問いが全国の教育行政に向けられる。

その影響は大きい。

既存実務を見直す必要が生じる自治体もあるだろう。

だからこそ、行政にとっては簡単に認めにくい問題なのかもしれない。

しかし、影響が大きいことは、法的根拠を曖昧にしてよい理由にはならない。

むしろ、全国に同じ仕組みが広がっているからこそ、原則へ立ち返る必要がある。

学校は学校の事務を行う。PTAはPTAの事務を行う。

PTAは、自ら会員を募り、自ら加入意思を確認し、自ら会費を徴収する。

それだけで、学校による会費徴収を公務として説明するための複雑な理屈の大部分が不要になる。

ここまで難しいことをする必要は、そもそもなかったのではないか。

三者契約を工夫する。

費用を分担する。

校務分掌に記載する。

委任状を交わす。

公益性を説明する。

一体処理を強調する。

別事件の判決を援用する。

そのようなことを繰り返すよりも、PTAが自分の会費を自分で徴収すればよいのである。

根拠にならない事情を100個積み上げても、1万個積み上げても、法令上の所掌事務・業務は生まれない。

そして、これほど多くの屁理屈と循環論法を必要としたことこそ、今回の住民監査請求が行政実務の急所を突いていたことの、最も雄弁な証左ではないだろうか。

監査請求は棄却された。

しかし、監査結果そのものが、請求人が突き付けた問いの深さを明らかにしてしまったのである。

本当に法令上の根拠があるのであれば、公益性や利便性を何十回も繰り返す必要はない。

その根拠を示せば、それで済む話なのである。


主要一次資料・出典

[1]滋賀県監査委員「住民監査請求に係る監査結果」

2026年5月26日結果通知、6月2日公表。7月31日付訂正を含む。

https://www.pref.shiga.lg.jp/documents/8874/5627358_1.pdf

監査請求の内容は1~3ページ、三者契約と事務の実態は12~16ページ、旧自治省行政実例は17ページ、公務性判断は18~20ページ、契約の合理性判断は20~21ページを参照。

[2]滋賀県「住民監査請求および監査結果の概要」

https://www.pref.shiga.lg.jp/documents/8874/5614820.pdf

[3]東京高等裁判所平成19年3月28日判決

久喜市職員の土地区画整理組合における事務従事及び給与支出等をめぐる住民訴訟。

https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-35246.pdf

特に11~14ページ。土地区画整理法第75条・第123条第1項、久喜市の固有事務、法令上の援助事務、特段の事情の判断を参照。

[4]内閣府「第153回地方分権改革有識者会議 提案募集検討専門部会 議事概要」

2023年7月20日。

https://www.cao.go.jp/bunken-suishin/kaigi/doc/teianbukai153/153gijigaiyou.pdf

特に14~16ページ。PTA会費の取扱い、文科省と総務省の説明、私人現金の保管に関する法的根拠の議論を参照。

[5]文部科学省「学校徴収金の公会計化等の取組の一層の推進について」

2025年4月30日付7初財務第3号。

https://www.mext.go.jp/content/20250616-mxt_zaimu-100002245_2.pdf

[6]文部科学省「GIGAスクール構想の下での校務DXチェックリスト(学校向け)(令和6年度)」

https://www.mext.go.jp/content/20240930-mxt_jogai01-000033278_001.pdf

[7]文部科学省「GIGAスクール構想の下での校務DXチェックリスト(学校向け)(令和7年度)」

https://www.mext.go.jp/content/20260306-mxt_shuukyo01-000048038_1.pdf

[8]個人情報保護委員会「公立学校とPTAの間で個人情報のやりとりをするためのポイント」

2026年3月。

https://www.ppc.go.jp/files/pdf/202603_school_pta_pd_point.pdf

特に5~8ページの、学校業務の根拠法令、利用目的の特定、目的外利用・提供、臨時的な例外に関する説明を参照。

[9]個人情報保護委員会「第353回個人情報保護委員会」

2026年3月25日。

https://www.ppc.go.jp/aboutus/minutes/2025/20260325/

[10]地方自治法

https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000067

特に第2条第14項、第235条の4、第242条。

[11]地方公務員法

https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000261

特に第35条。

[12]社会教育法

https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000207

特に第3条、第10条、第11条、第12条。

[13]土地区画整理法

https://laws.e-gov.go.jp/law/329AC0000000119

特に第75条、第123条第1項。


本稿の位置付け

本稿は、滋賀県監査委員が公表した住民監査結果の論理構造、引用判例の射程、国の行政資料の変化及び住民監査請求制度の限界を批判的に検証するものである。

「屁理屈」「循環論法」「結論ありき」等の表現は、監査結果に示された論証に対する筆者の評価であり、監査委員個人の主観的意図や不正行為を認定するものではない。

また、三者契約の存在だけで直ちに脱法行為と断定するものではなく、地方自治法第235条の4第2項の適用については、具体的な資金管理及び保管の実態を確認する必要がある。

住民監査請求が一部却下・一部棄却されたことは、関連するすべての法律問題について包括的な適法判断がなされたことを意味しない。同様に、本稿の批判的検証によって、個別の財務会計行為の違法性が確定したと主張するものでもない。

© PTA適正化推進委員会