PTA適正化推進委員会
2026年10月13日
はじめに――「効率化」の前に問われるべき行政の権限
学校が保護者から集める金銭を、できるだけ効率的に徴収する。
教職員の負担を減らし、保護者の振込手数料を抑え、自治体が整備したシステムで徴収・管理を一元化する。
それ自体は合理的な行政改革である。
しかし、行政が業務を効率化する際には、最初に確認しなければならないことがある。
そもそも、その金銭は誰の債権であり、誰が徴収すべきものなのか。
学校給食費、教材費、修学旅行費、PTA会費。
これらは長年、学校が取り扱う「校納金」「学校徴収金」などとして、一括して徴収されてきた。
しかし、同じ口座から引き落とされるからといって、法的性質まで同じになるわけではない。
学校給食費は学校給食の提供に伴う費用である。
教材費や修学旅行費は、学校教育活動の実施に関係する費用である。
一方、PTA会費は、公立学校とは独立した任意団体の会員関係に基づく費用である。
学校教育に関係する費用と、学校に関係する私的団体の会費は、法的に区別しなければならない。
この区別が曖昧なまま、学校徴収金の公会計化や校務DXの名の下に、私的団体の会費まで行政の徴収システムへ組み込まれてはいないだろうか。
愛媛県松山市が進めてきた「校納金徴収管理一元化事業」と、同市が2026年10月6日に示した公式回答は、この問題を検証する重要な事例となった。
本稿では、文部科学省の学校徴収金政策、松山市の制度設計、2023年の誤徴収事案、2026年の公式回答を時系列で検討する。
さらに、法律による行政の原理、地方自治法の私金保管規制、個人情報保護法、保護者の権利、教職員の働き方改革という観点から、制度の成立条件そのものを問い直す。
問題は、システムが便利かどうかではない。
行政が、その事務を行う権限を持っているのかということである。
1 文部科学省の方針――学校が集めない仕組みへの転換
2025年4月30日、文部科学省は「学校徴収金の公会計化等の取組の一層の推進について」(7初財務第3号)を発出した。[1]
この通知は、2019年の中央教育審議会答申などを踏まえ、教材費や修学旅行費等の徴収・管理を「基本的に学校以外が担うべき業務」として整理している。
その上で、学校徴収金の改革について、大きく二つの方向を示している。
地方公共団体による公会計化
第一は、学校教育活動に必要な費用を地方公共団体の公会計で取り扱う方法である。
教材費や修学旅行費等について、文部科学省は、学校設置者が学校教育法等に基づいて学校教育活動に責任を有することから、自治体の歳入歳出予算に組み入れて徴収・管理することが可能であると整理した。
これにより、学校・教師の負担軽減、保護者の利便性向上、会計の透明性向上などが期待される。
保護者と業者等による直接支払い
第二は、学校を経由しない直接支払いである。
制服、体操服、上履き、卒業アルバム、修学旅行費等について、保護者と業者等が直接決済する方式も紹介されている。
同通知の別添3では、公会計として取り扱わない費目について、保護者と業者等の間で直接支払う運用が示されている。
ここで重要なのは、文部科学省が、すべての金銭を自治体の徴収システムに集約することを求めているわけではないという点である。
学校教育活動に必要な費用については、その性質に応じて公会計化する。
公会計化しない費用については、学校を経由しない直接支払いへ移すこともできる。
いずれも、学校・教師が徴収管理を抱え込まないための方法である。
「徴収事務を効率化すること」だけではなく、「学校が徴収しないこと」も、国が示している働き方改革の方向なのである。
2 PTA会費は、学校徴収金として当然に取り扱えるものではない
2025年の文部科学省通知は、学校徴収金の費目として、教材費、入学時一括購入品費、調査関係経費、卒業諸費、修学旅行費、校外活動費、芸術鑑賞費、日本スポーツ振興センター掛金等を列挙している。
この列挙にPTA会費は含まれていない。
なぜか。
それぞれの費用の発生原因と帰属主体が異なるからである。
教材費は学校教育活動に必要な物品等に関係する。
修学旅行費は学校教育活動として実施される行事に関係する。
一方、PTA会費は、PTAという独立した団体への加入に基づいて発生する会費債権であり、通常、その債権者は各単位PTAである。
公立学校に児童生徒が在籍していることと、その保護者がPTAの会員であることは、法的に同一ではない。
学校教育活動に必要な費用を自治体の公会計で取り扱えることから、PTA会費の徴収まで当然に認められるわけではない。
ここには、さらに注目すべき政策資料の変化がある。
文部科学省の令和6年度「GIGAスクール構想の下での校務DXチェックリスト」では、広義の学校徴収金の例示にPTA会費が含まれていた。
ところが、令和7年度版では、その例示と費目別の選択肢からPTA会費が削除されている。[2]
この変更だけで、文部科学省がPTA会費の学校徴収を法的に禁止したと断定することはできない。
しかし、学校教育活動に伴う費用とPTA会費との区別を考えるうえで、重要な変化である。
そもそも、行政のチェックリストにある費目分類は、地方公共団体や学校に新たな法的権限を与えるものではない。
「学校徴収金」と呼んできたことは、学校が徴収してよいという根拠にはならない。
「従来から学校で集めていた」という事実も同じである。
慣行の存在と、行政の所掌事務・権限の存在を混同してはならない。
3 松山市の制度設計――「法的に可能な範囲」はどこへ行ったのか
松山市は、学校給食費の公会計化に合わせて、校納金の徴収管理を一元化するシステムを整備した。
松山市の「情報化推進アクションプラン(令和3年度版)」では、学校給食費や教材費等について、各学校で行われていた徴収・管理を市が一元的に担うためのシステムを構築すると説明している。[3]
その目的には、教職員の負担軽減、事務効率の向上、保護者の利便性向上が掲げられている。
また、実現上の課題として、事務処理の統一、職員研修、個人情報管理、財源確保、人員確保等が挙げられている。
2020年度の予算化、2021年度の設計・構築を経て、2022年度から運用する計画であった。
この制度設計に関して、注目すべき記録がある。
2021年6月の鹿児島市議会『調査時報』では、松山市の「校納金徴収管理一元化事業」が紹介され、学校給食費を公会計化する一方、教材費等の口座振替事務については、次のように説明されている。[4]
法的に可能な範囲で松山市に一元化する。
この文言は、鹿児島市議会が掲載した松山市事業の紹介に存在するものである。
松山市自身がPTA会費についてどのような法的審査を行ったかを直接証明するものではない。
しかし、学校徴収金の一元化には法的な限界があり、対象費目に応じた判断が必要であることを示す重要な手掛かりである。
そして、2021年4月の松山市教育委員会定例会会議録では、「校納金徴収管理一元化事業」と「PTA活動推進事業」は、異なる事業として説明されている。[5]
前者は学校給食費の公会計化と校納金の口座振替事務等に関するものである。
後者はPTAの活動を支援する事業である。
少なくとも、この事業説明から、PTA会費を市が徴収するための独立した権限根拠は確認できない。
ここで問われるのは、次の一点である。
松山市は、PTA会費を徴収一元化事業の対象に含めると判断した際、何を根拠として行政が取り扱える費用だと整理したのか。
制度設計時に独立した法的検討を行っていたのであれば、その判断内容を明らかにする必要がある。
反対に、従来学校がPTA会費を徴収していたことを理由に、特段の権限検討を行わずシステムに組み込んだのであれば、その判断自体が検証対象となる。
ここで、過去と現在の問題を区別しておく必要がある。
制度導入時に法的審査を行ったことは、現在の制度が適法であることを当然に意味しない。
一方、当時の審査記録が確認できないことだけで、現在の制度が違法と確定するわけでもない。
問われるのは、制度導入時にどのような判断をしたのか、そして現在もその事務を処理できる権限があるのかという、二つの独立した問題である。
4 2023年の誤徴収――単なる入力ミスでは終わらない
2023年、松山市では、PTA及び後援会に加入していない保護者から会費が引き落とされる事案が発生した。
同年11月20日、松山市は「市長へのわがまちメール」(公開番号3251)で、この問題について回答した。[6]
市は、PTA会費を学校で徴収する校納金に合わせて引き落としていることを認め、今回の引落しは学校の事務手続上のミスによるものと説明した。
そして、各学校に対して再発防止を含め、校納金事務を適正に行うよう指導するとした。
しかし、ここで検討すべき問題は、入力ミスの再発防止だけではない。
なぜ公立学校の職員が、PTAの会員・非会員を判別し、徴収額を登録する業務を行っているのか。
本来、任意団体への加入は、個々の保護者とPTAとの関係で決まる。
会員の確定、会費の請求、徴収停止、返金、未納管理等は、基本的にはその団体自身が行うべき事務である。
ところが、その情報を学校の徴収システムに登録し、学校・教育委員会が徴収処理に関与すれば、学校の事務処理上の誤りによって、非会員から会費を引き落とすことが可能になる。
PTAが自ら会員を管理し、自ら徴収する方式であれば、少なくとも学校の校納金システムを通じた非会員からの誤徴収は防げる。
また、誤徴収は単なる数値の誤りではない。
会費債務のない保護者から金銭が引き落とされたという、財産上の問題である。
再発防止策が必要であることはいうまでもない。
しかし、最初に検証すべきなのは、学校がPTA会費を徴収するという制度上の前提そのものではないだろうか。
5 2026年9月14日――制度の出発点を検証するよう求めた
PTA適正化推進委員会は、2026年9月14日、松山市長に対し、PTA会費・後援会費を学校の校納金徴収制度から分離するよう求める照会を行った。[7]
この照会では、2023年の誤徴収を単なる事務ミスとして終わらせることなく、市の徴収制度そのものを検証するよう求めた。
質問は15項目に及び、PTA会費徴収の実態、学校職員の業務、本人同意、個人情報、未納管理、資金の送金、行政資源の利用等を確認する内容であった。
しかし、照会の中心にあったのは、個々の処理方法ではない。
なぜ公立学校がPTA会費を徴収しているのか。
その制度の出発点を検証することであった。
照会では、学校とPTAの協力関係そのものを否定するのではなく、PTAの内部事務を学校が恒常的に処理する行政上の根拠を明らかにするよう求めた。
さらに、私法上の委任や本人同意があることと、公立学校がその事務を受任・処理できる権限があることは別問題であると指摘した。
この点は重要である。
松山市は、2026年10月に初めて制度の根本問題を指摘されたわけではない。
9月14日の時点で、制度の出発点そのものを検証するよう明確に求められていたのである。
6 2026年10月6日――松山市が公式回答で認めたこと
松山市は2026年10月6日、「わがまちメール回答(NO.490)」として、市長名で回答した。[8]
回答は松山市教育委員会教育長名で取りまとめられ、教育支援センター事務所、学校教育課、保健体育課の三部署が関係している。
その内容は、PTA会費の徴収実態をかなり具体的に認めるものであった。
松山市が説明した主な事実は、次のとおりである。
- 全市立小中学校で、任意団体の会費を校納金等と併せて徴収している。
- PTA会費の徴収そのものは松山市が行っている。
- 学校事務職員等が、勤務時間中に学校のパソコンで徴収額をシステムへ登録している。
- 学校が保有する児童生徒・保護者名や口座情報をPTA会費徴収の入力作業に利用している。
- PTAから得た加入者情報を基に、学校職員が徴収額を登録している。
- PTA会費を含む校納金が未納となった場合、教育委員会が再振替の案内を兼ねた督促に関与している。
- 市が仕分口座で口座振替金を受け取り、各費目口座へ送金している。
この回答によって、争点は大きく変化した。
それまで確認すべきだった徴収実態について、松山市自身が組織的・継続的な処理を認めたからである。
しかし、問題はその先にある。
回答3では、市PTA連合会との私法上の合意書を挙げたうえで、
他の根拠はありません。
と説明した。
回答14でも、
明文根拠は存在しませんが、松山市小中学校PTA連合会と合意書を交わしています。
と回答している。
これらは、考え得るすべての一般法上の権限の不存在を確定させるものではない。
しかし、少なくとも松山市は、具体的な行政上の根拠を問われながら、私法上の合意書を中心とする説明を行ったことになる。
そして回答13・15では、現在の処理方式を継続する方針を明言した。
徴収実態は明らかにした。しかし、その事務を行政が行える根拠については、十分な説明が示されていない。
ここに、今回の公式回答の根本的な問題がある。
7 法律による行政の原理――私法上の合意書は何を根拠付けるのか
行政は、法律に違反して活動してはならない。
また、行政が私人の権利を制限し、義務を課す場合には、法律上の根拠が要求される。
これが法律による行政の原理の基本である。
もっとも、あらゆる非権力的行政活動について、個別の法律による明示的な授権が常に必要とされるわけではない。法律の留保の及ぶ範囲には行政法上の議論がある。
したがって、本件でも、単にPTA会費徴収を直接許可する条文が見当たらないというだけで、直ちに違法と断定することは適切ではない。
しかし、松山市の事務処理には、具体的な法律上の制約が存在する。
まず、公立学校の所掌事務と教職員の職務の範囲がある。
次に、学校保有個人情報の取扱いについて、個人情報保護法第61条及び第69条がある。
さらに、市が私的団体に帰属する金銭を受領・保管するのであれば、地方自治法第235条の4第2項が問題となる。
これらは、単に保護者の利便性や事務効率によって取り除ける制約ではない。
市PTA連合会との合意書は、合意当事者間の法律関係を定めるものである。
しかし、私法上の合意書だけで、公立学校の法定所掌事務や教職員の職務範囲が当然に拡張されるわけではない。
また、各単位PTAが会費債権を有するのであれば、市PTA連合会がどの範囲で徴収事務を委任・再委任できるのかという問題もある。
そして、仮に各単位PTAから市PTA連合会への委任関係が適切に成立していたとしても、それによって松山市の行政上の権限が自動的に発生するわけではない。
問われるのは、PTAが依頼できるかではない。
その依頼を、行政が公務として引き受けてよいのかということである。
8 松山市自身が認めた「校務との区別」と、学校職員の職務
松山市回答の中で、特に注目すべきなのが回答4・5である。
松山市は、
本来は、PTAは任意団体ですので、学校の校務とは区別されるべきものと認識しています
と明言している。
その一方で、同じ回答では、学校職員がPTA会費徴収の入力作業を行っていることを認めている。
さらに回答11では、その作業が勤務時間中に学校のパソコンを使用して行われていることまで説明した。
ここで問われるのは、非常に具体的な問題である。
校務と区別されるべき私的団体の事務を、どのような行政上の判断によって学校職員の職務として処理しているのか。
校務と区別される事務について、学校と外部団体が一切連携できないという意味ではない。
また、学校教育との関連性がある事務について、学校職員の関与が常に違法となるわけでもない。
しかし、PTA会費の徴収対象者を確定し、金額を登録し、徴収停止や未納管理に関係する作業は、一般的な教育活動への協力とは性質が異なる。
PTAの内部的な会費債権の管理に直接関係する事務だからである。
しかも松山市は、PTA事務と校務を区別すべきこと自体は認識している。
それならば、その区別を認識しながら、なぜ学校職員が勤務時間中に処理できるのかを説明する必要がある。
学校教育との関係があることと、PTA固有の事務が当然に校務となることは同じではない。
この区別こそが、学校とPTAの公私分離を考える際の中心問題である。
9 「仕分口座」は地方自治法第235条の4第2項を解決するのか
松山市の回答10は、本件でも特に重要である。
市は、金融機関の振替結果をシステムに取り込み、各費目の収入金額を確定したうえで、振替金を市の仕分口座で受け取り、各費目口座へ送金すると説明した。
さらに、地方自治法第235条の4第2項を挙げ、PTA会費等は公金口座に入金しない形で処理していると回答した。
しかし、同項は、普通地方公共団体の所有に属しない現金等について、原則として法律又は政令の規定によらなければ保管できないとする規定である。[9]
公金口座と別の口座に入れれば、自治体が私的団体の金銭を保管できるとする規定ではない。
したがって、「仕分口座で処理している」という技術的な説明だけでは、法律上の検討は完了しない。
確認すべき事項は、少なくとも次のとおりである。
仕分口座の名義人は誰なのか。
預金債権は誰に帰属するのか。
市が資金についてどのような管理・処分権限を有しているのか。
市による保管に該当する場合、それを許容する法律又は政令の規定は何か。
市による保管に該当しないというのであれば、その法律関係はどのように構成されているのか。
なお、回答10にいう「本市が受け取り、送金している」という説明だけで、地方自治法上の保管に該当すると最終確定できるわけではない。
金融機関との契約関係や預金債権の帰属等を確認する必要がある。
しかし、それを説明するのは、実際に制度を設計し、運用している松山市自身である。
さらに重要なのは、この問題が解決したとしても、なお別の問題が残ることである。
仮に私金保管の規制に抵触しない資金処理方法であったとしても、それは市がPTA会費を徴収する行政上の権限を説明したことにはならない。
仕分口座は、徴収した金銭をどう処理するかという問題である。
それ以前に、行政がその金銭を徴収してよいのかという問題がある。
入口の権限判断と、出口の資金処理を取り違えてはならない。
10 個人情報保護法第61条――本人同意では解決しない問題
松山市は回答7で、学校が保有する児童生徒・保護者名や口座情報を、PTA会費徴収の入力作業に利用していることを認めた。
その説明として挙げたのは、PTAへの協力、徴収の効率化、保護者の黙示的な同意等である。
しかし、ここでも確認すべき順序がある。
個人情報保護法第61条は、行政機関等が個人情報を保有する場合、法令の定める所掌事務又は業務を遂行するために必要な場合であることを前提としている。
2026年3月25日に個人情報保護委員会が公表した「公立学校とPTAの間で個人情報のやりとりをするためのポイント」でも、学校の業務の根拠法令を確認し、その所掌事務又は業務の範囲内で利用目的を特定するよう説明している。[10]
また、同法第69条は、保有個人情報の目的外利用・提供について制限を設け、一定の場合に例外を認めている。
同委員会資料は、第69条第2項による例外的な利用・提供について、臨時的なものとして整理している。
なお、学校内部での利用と、学校からPTAへの第三者提供は、法的に区別して検討する必要がある。
しかし、いずれの場合も、最初に確認すべきなのは、学校が何の事務のためにその情報を取り扱っているのかである。
仮に保護者本人の同意が存在しても、その同意によって公立学校の所掌事務が当然に拡張されるわけではない。
「PTAへの協力」という説明も同じである。
PTA会費徴収が学校のどの事務に位置付けられるのかを示さず、利便性や同意だけを理由として恒常的に学校保有情報を利用しているのであれば、その法的整理を改めて検証する必要がある。
本人同意の問題と、行政がその事務を行う権限の問題は、最初から別なのである。
11 財産権と結社の自由――徴収制度が保護者に与える影響
PTA会費の学校徴収は、単なる会計処理の問題ではない。
保護者の財産上の利益や、任意団体への加入・退会の自由にも関係する。
憲法第21条は結社の自由を保障している。
任意団体への加入・退会についても、この自由との関係を考える必要がある。
また、憲法第29条は財産権を保障している。
PTA会費の徴収は、保護者の財産上の利益に直接関係する。
もちろん、学校徴収制度によってPTA会費を引き落としていることから、直ちに憲法21条又は29条に違反すると断定することはできない。
しかし、学校への在籍に伴う費用と、任意団体への加入に基づく会費を一括して徴収する仕組みには、保護者の権利との関係で慎重な検証が必要である。
学校が配布する校納金の案内にPTA会費が含まれれば、保護者には、学校に納めるべき費用と、PTA会員として支払う会費の区別が分かりにくくなるおそれがある。
また、学校が会員情報を扱い、自治体が徴収処理を担う方式では、PTAへの加入という私的な法律関係が、学校の事務処理と密接に結び付く。
2023年の松山市の誤徴収は、そのような制度に伴うリスクが現実化した事例といえる。
PTAの任意加入を実質的に保障するには、加入意思を確認するだけでなく、会費の請求・徴収の主体も明確にする必要がある。
PTA自身が会員を確定し、自ら会費を徴収することは、団体の自主性と保護者の入退会の自由を、制度の上でも明確にすることにつながる。
12 教職員の真の負担軽減――「効率化」よりも「事務の分離」
松山市の徴収一元化事業は、教職員の負担軽減を大きな目的としてきた。
しかし、2026年の公式回答によれば、学校職員は現在もPTA会費の徴収額をシステムに登録している。
しかも勤務時間中に、学校のパソコンを使用している。
PTA加入者情報を確認し、徴収対象者を識別し、徴収額を入力する。
会員資格に変更が生じれば、その情報を反映する必要がある。
誤徴収や登録間違いがあれば、確認・訂正の負担が発生する。
徴収処理が市に一元化されても、学校はなおPTA会費徴収の事務工程を担っているのである。
ここで発想を転換する必要がある。
そもそも学校職員がPTA会費の徴収事務を行わなければ、その業務を効率化する必要もない。
PTAが自ら加入申込みを受け、自ら会員を管理し、自ら会費を徴収する。
そうすれば、学校職員がPTA会費のために会員情報を照合し、徴収額を登録する作業は不要になる。
学校保有情報をPTA会費徴収のために利用する必要もなくなる。
市がPTA会費を仕分口座で受け取り、各団体へ送金する仕組みも不要になる。
もちろん、移行時には金融機関との契約変更、会員への案内、PTA側の徴収体制整備等が必要である。
しかし、移行後には、学校が継続的に抱えてきたPTA固有事務を削減できる。
これは教職員の負担軽減だけではない。
事務の責任主体を明確にする行政改革でもある。
本来学校が行う必要のない事務を、高性能なシステムで処理し続けることが、必ずしもDXの成功ではない。
不要な事務を本来の主体へ戻すことも、行政改革なのである。
13 松山市の制度設計にあった可能性のある根本的な取り違え
ここまでの資料と回答を通して読むと、松山市の制度設計について一つの仮説が浮かぶ。
第一に、学校給食費の公会計化に伴い、校納金徴収管理の一元化を進めた。
第二に、従来から学校が校納金と併せて徴収していたPTA会費も、同じシステムへ組み込んだ。
第三に、PTA会費は市の公金ではないため、市PTA連合会との合意書や仕分口座によって処理した。
そして、第四に、これらの事務処理方法が整ったことで、制度としての問題も解決したと認識したのではないか。
この経過は、現在確認できる資料から考えられる仮説であり、松山市内部の意思決定記録によって確定されたものではない。
しかし、この仮説が正しいならば、問題は仕分口座を設けたことから始まったのではない。
そもそもPTA会費を行政の徴収一元化事業に組み込めると判断した時点に、最初の問題が存在する。
そこで、本来確認すべきことがあった。
PTA会費は誰の債権なのか。
学校教育活動に必要な費用として市が徴収できるものなのか。
PTAの会員管理や会費徴収は、公立学校のどの所掌事務に含まれるのか。
学校職員がその事務を行う根拠は何か。
学校保有情報をそのために利用できるのか。
市が徴収金を受け取り、送金することは地方自治法上認められるのか。
これらを確認した結果として、初めて徴収システムへの組込みを判断できる。
先にシステムへ組み込み、その後に合意書や仕分口座で処理方法を整えたのだとすれば、法律上の判断と技術的な事務設計の順序が逆だった可能性がある。
そして、その可能性を検証するうえで、2021年の事業紹介に見られる「法的に可能な範囲で」という条件が意味を持つ。
松山市は、PTA会費をその範囲に含める判断を、いつ、何を根拠として行ったのか。
制度設計時に法的審査を行ったのであれば、その内容は何だったのか。
行っていなかったのであれば、なぜPTA会費を市の徴収対象に含めることができると判断したのか。
そして何より、現在もその判断を維持できる法的根拠は何なのか。
過去の検討経過と現在の権限を分けて確認することが、制度全体の適法性を検証するために必要なのである。
14 10月7日の再整理要求――行政自身による法的検証を求める
松山市が10月6日に公式回答を示した翌7日、PTA適正化推進委員会は、回答内容の再整理及び訂正を要求した。[8]
その中心に据えたのは、回答10における地方自治法第235条の4第2項の位置付けである。
同項は私金の保管を無条件に認める根拠ではなく、むしろ法律又は政令に基づかない保管を制限する規定である。
また、松山市自身が「本市が仕分口座で受け取り、送金している」と回答している以上、その法律関係を具体的に整理する必要がある。
さらに、市PTA連合会との合意書を挙げて「他の根拠はない」と述べた回答3・14、PTA事務は校務と区別されるべきと認識しながら学校職員による入力作業を認めた回答4・5、学校保有情報の利用を認めた回答7などについて、部署間の法的整理を突き合わせるよう求めた。
ここで求めたのは、個々の回答を部分的に補修することではない。
制度の前提となる所掌事務・権限の判断から、回答全体をやり直すことである。
とりわけ重要なのは、現行方式を継続するという結論を先に置かず、事実と法令を確認した結果として、継続の可否を判断するよう求めた点である。
行政が一度行った判断を、後から見直すこと自体は不適切ではない。
むしろ、問題を指摘された際に過去の判断を再検証し、必要であれば訂正することは、行政の法律適合性を確保するための正常な対応である。
そして、本件は市長名の公式回答として発出されている。
そのため、各担当部署の説明だけでなく、市として一貫した法的整理を示すことが求められる。
松山市が今後どのような結論を示すとしても、問われるのは、どの事実を確認し、どの法令を検討し、どのような判断過程を経てその結論に至ったのかということである。
15 学校徴収金改革の本来の姿――最初に公私を分ける
学校徴収金改革について、私たちは「どう集めるか」という発想に偏りやすい。
しかし、制度改革の出発点は「誰が集めるべきか」でなければならない。
学校給食費は、その公会計化の仕組みに従って市が徴収・管理する。
教材費や修学旅行費等は、学校教育活動との関係や費用の性質に応じて、公会計化又は保護者と業者等の直接決済を選択する。
そして、PTA会費は、独立した任意団体であるPTA自身が会員を確認し、自ら請求・徴収する。
このように整理すれば、費用の性質と事務の主体が一致する。
PTAの会費徴収をPTA自身に戻すことは、PTA活動を否定することではない。
むしろ、学校という公的機関への恒常的な依存を減らし、任意団体としての自主性を確保することにつながる。
入会する人が自ら会費を支払い、加入しない人には会費債務が生じない。
PTAは会員に対して活動内容と費用を説明し、その理解と支持を得ながら運営する。
そこでは、団体が存続するか、活動を縮小するか、どの活動を残すかも、会員の意思と負担に基づいて決まる。
これは、任意団体として自然な姿である。
また、学校職員がPTA会費のために加入者情報を管理し、徴収額を入力する必要もなくなる。
学校保有情報の利用に伴う問題も減少する。
保護者にとっては、学校教育に必要な費用とPTA会費の区別が明確になる。
PTAの任意加入、教職員の働き方改革、行政の法律適合性という三つの課題は、公私を分離することによって、同時に改善できるのである。
おわりに――「一元化できること」と「一元化してよいこと」は違う
松山市の「校納金徴収管理一元化事業」は、学校給食費の公会計化や学校徴収金の事務効率化という政策目的から始まった。
その目的自体を否定するものではない。
問題は、その制度に、学校とは独立した任意団体の会費まで組み込んだことである。
松山市は2026年10月6日の回答で、PTA会費の徴収、学校職員による登録、学校保有情報の利用、未納時の対応、市による受領・送金を具体的に説明した。
しかし、それらの事務を行政として実施する根拠については、私法上の合意書を中心とする説明にとどまった。
本稿は、このことから直ちに制度全体の違法性を確定するものではない。
問うているのは、さらに基本的な問題である。
松山市は、そもそも何を根拠として、PTA会費を市の徴収一元化事業に組み込めると判断したのか。
そして、
その判断は、現在も法令上維持できるものなのか。
仮に仕分口座の資金処理に問題がないとしても、それだけで徴収事務の権限は説明できない。
仮に市PTA連合会との合意書が有効であっても、それだけで学校の所掌事務や職員の職務範囲が拡張されるわけではない。
仮に保護者の同意があっても、それだけで行政がその事務を処理する権限を持つことにはならない。
行政の効率化は、行政の法律適合性を前提とする。
技術的に処理できることと、法的に処理してよいことは、全く異なるのである。
2025年の文部科学省通知は、学校教育活動に必要な費用について、適切な公会計化と学校を経由しない直接支払いを推進している。
その方向性を踏まえれば、学校と関係する金銭をすべて行政が集める必要はない。
まず、誰の債権なのかを確認する。
次に、誰の事務なのかを確定する。
そのうえで、適切な主体が徴収・管理する仕組みを設計する。
この順序を守ることこそ、行政の法律適合性と実効性ある働き方改革の両立につながる。
松山市の事例は、全国の学校徴収金制度にも、同じ問いを投げかけている。
学校が従来から集めてきたというだけで、行政の事務として制度化していないか。
システムの設計が、法的な権限判断に先行していないか。
効率化の名の下に、公と私の境界を曖昧にしていないか。
必要なのは、より複雑な徴収システムでも、より巧妙な仕分口座でもない。
最初に、誰の事務なのかを確定することである。
学校給食費は学校給食費として。
教材費等は、その法的性質に応じて。
そしてPTA会費は、PTA自身の会費として。
一元化する前に、まず公私を分ける。
それが、学校徴収金改革を進めるうえで、最も基本的な原則である。
出典・一次資料
[1]文部科学省(2025年4月30日)
「学校徴収金の公会計化等の取組の一層の推進について」(7初財務第3号)。本文1~2ページ、別添3・6~8ページ。
https://www.mext.go.jp/content/20250616-mxt_zaimu-100002245_2.pdf
[2]文部科学省「GIGAスクール構想の下での校務DXチェックリスト」
令和6年度版と令和7年度版の学校徴収金の費目例示及び質問項目を比較。
令和6年度版:
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_02597.html
令和7年度版:
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_00085.html
[3]松山市「情報化推進アクションプラン(令和3年度版)」
「学校徴収金(校納金)徴収管理システム構築事業」。冊子33ページ、PDF35ページ。
[4]鹿児島市議会『調査時報』2021年6月号(No.132)
「中核市の主要新規単独事業」に掲載された松山市「校納金徴収管理一元化事業」。誌面35ページ、PDF36ページ。「法的に可能な範囲で」の記述。
[5]松山市教育委員会(2021年4月)
令和3年第4回教育委員会定例会会議録。「校納金徴収管理一元化事業」及び「PTA活動推進事業」の説明。
[6]松山市「市長へのわがまちメール」(2023年11月20日)
「PTAと後援会の会費の引き落とし」、公開番号3251。
https://www.city.matsuyama.ehime.jp/wagamachi/detail/3251.html
[7]PTA適正化推進委員会(2026年9月14日)
松山市長宛て「PTA・後援会費を学校の校納金徴収から分離してください――2023年の非加入者からの誤徴収を『事務ミス』で終わらせず、制度そのものの検証を求めます」。当委員会保管文書。
[8]松山市・PTA適正化推進委員会の往復文書
2026年10月6日「わがまちメール回答(NO.490)」及び同月7日「回答内容の再整理及び訂正要求」。当委員会保管文書。
[9]地方自治法第235条の4第2項
「現金及び有価証券の保管」。e-Gov法令検索。
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000067
[10]個人情報保護委員会(2026年3月25日)
「公立学校とPTAの間で個人情報のやりとりをするためのポイント」。特に5~8ページ。
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/260325_shiryou-3.pdf
[11]日本国憲法第21条、第29条
結社の自由、財産権の保障。e-Gov法令検索。
https://laws.e-gov.go.jp/law/321CONSTITUTION
本稿は、2026年10月13日までに確認した公表資料及び松山市との往復文書に基づく法制度・行政実務の分析である。制度導入時の松山市内部の意思決定過程については、確認された事実と検討仮説を区別した。
本稿は松山市の現行制度全体の違法性を最終的に認定するものではなく、学校及び教育委員会がPTA会費徴収事務を行う所掌事務・権限と、関係法令への適合性について、具体的な検証を求めるものである。
