PTAを任意加入の団体として位置付けるのであれば、出発点となるのは、保護者本人の「加入意思」である。
任意加入という制度の本質は、加入しない自由が形式的に保障されていることだけではなく、本人が加入するかどうかを自ら選択し、加入する意思を示した者だけが会員となることにある。
PTAを任意加入団体として運営するなら、「加入しない人を除外する」のではなく、「加入した人」を会員として確定する仕組みが必要です。
- 01加入意思
- 02会員資格
- 03会員名簿
- 04会費負担
- 05個人情報
- 06契約法上の確認
民法、消費者契約法、個人情報保護委員会資料
当委員会による法的整理、実務上の問題点
1 加入意思――民法522条の申込み・承諾から始める
学校に子どもが在籍していることや、PTAから加入案内を受け取ったこと、あるいは「加入しない場合は申し出てください」と通知されたにもかかわらず申し出なかったことだけから、当然にPTAへの加入意思が存在したとみなすことはできない。
民法522条は、契約は、契約内容を示して締結を申し入れる意思表示(申込み)に対し、相手方が承諾したときに成立することを基本としている。PTA加入を契約関係として整理するなら、学校への在籍、学校書類の提出、沈黙又は未回答そのものは、PTAへの加入申込みとは別である。なお、同条2項により契約成立に書面が絶対に必要なわけではないが、任意加入団体が誰を会員として扱ったかを後から説明するには、申込みと承諾を確認できる記録を残すことが重要になる。
ここで問題になるのが、オプトアウト方式である。オプトアウト方式では、「加入しない人は申し出てください」とした上で、期限までに申し出がなかった人を会員として扱う。しかし、この場合にPTAが記録として持つことができるのは、「加入しないという申出がなかった」という事実であって、「PTAに加入する」という本人の意思表示ではない。この二つは同じではない。沈黙や不作為は、積極的な加入意思を示す行為ではないからである。
「加入する/加入しない」を全員提出させる方式は、オプトインと同じではない
チェックボックス自体が問題なのではない。「□ PTAに加入を申し込みます」のように、加入希望者が自ら選択し、PTAへ直接提出する方式は、明示的な加入申込みの記録になり得る。
これに対し、「□加入する/□加入しない」の二択を設け、全員提出を求め、学校や担任が回収・未提出者の追跡まで行う方式は別の問題を生む。本来、PTAの会員管理に必要なのは、誰が加入を申し込んだかという会員情報である。加入しない者全員に「加入しない」と積極的に申告させ、氏名、児童名、学年・学級等と結び付けて非加入情報を保存する必要性は、それ自体を別途説明しなければならない。
また、全員提出を完遂するには、「全在籍者」と「提出済者」を照合して未提出者を割り出す処理が生じやすい。学校が在籍者名簿、学年・学級、学籍番号その他の校務情報を使って未提出者を抽出し、担任が再提出を促すのであれば、PTAへ名簿そのものを渡していなくても、学校自身が学校保有情報をPTAの入会管理のために利用しているかが問題になる。詳しくは学校内部でのPTA目的利用を参照されたい。
最も単純なオプトイン:加入希望者だけがPTAへ申し込み、PTAがその申込者だけを会員として管理する。加入しない者を一覧化する必要も、学校が提出状況を管理する必要もない。
そして、この違いは、単なる加入手続の問題にとどまらない。加入意思が確認できなければ、次に問題となるのは会員資格そのものである。
2 会員資格
PTAの会員とは、学校に在籍する児童の保護者一般を意味するものではなく、PTAという任意団体に加入した者である。したがって、「誰がPTA会員なのか」を確定するためには、少なくともその者が加入する意思を示したことを確認できなければならない。「拒否しなかったから会員である」という仕組みでは、会員資格の発生根拠を本人の加入意思ではなく、本人が何もしなかったことに置くことになる。
会員資格が確定すれば、その次に会員名簿を作成することができる。逆に、誰が会員なのかが確定していなければ、PTAが作成する名簿が本当に「会員名簿」といえるのかが問題になる。
ここでは、学校が保有する保護者情報とPTAの会員名簿を明確に区別する必要がある。学校に児童・生徒の保護者情報が存在することは、その保護者がPTA会員であることを意味しない。学校から提供された保護者の氏名等を並べれば、それだけでPTAの会員名簿になるわけではない。
3 会員名簿と個人情報
個人情報保護委員会も、PTAが学校から生徒等の個人情報の提供を受ける場合について、学校とPTAとの間で個人情報を取り扱う際には、個人情報保護法に沿った適切な取扱いが必要であることを示している。
個人情報保護委員会 FAQ Q4-13 PTAが学校から生徒等の個人情報を取得する場合
また、PTAが本人から個人情報の提供を受けて名簿を作成する場合についても、利用目的を明らかにした上で取得し、その後に名簿を配布するなど、本人以外に個人データを提供する場合には、原則として本人の同意が必要となる。
個人情報保護委員会 FAQ Q4-18 PTAが名簿を作成・配布する場合
したがって、「学校から保護者の情報を受け取ったので、その全員をPTA会員として登録する」という処理には、少なくとも「その人がPTA会員である」という別個の根拠が必要になる。学校が保有している情報は、学校と保護者との関係に基づく情報であって、それをPTAの会員資格の証明に置き換えることはできない。
4 会費徴収
さらに、会員資格と会員名簿が確定すると、次に問題になるのが会費である。
会費は、PTAの会員であることを前提として負担するものである。したがって、「誰が会員なのか」が確定していない状態で、学校に在籍する児童の保護者全員に対して一律に会費を請求することには、会員資格とは別に、会費負担の根拠という問題が生じる。
ここでも、オプトインとオプトアウトの違いが明確になる。
オプトイン
- 本人が加入を申し込んだ
- PTA会員となった
- 会員名簿に登録した
- 会員として会費を負担する
オプトアウト
- 加入しないという申出がなかった
- 加入したものと扱った
- 会員名簿に登録した
- 会費を請求した
オプトインであれば、「本人が加入を申し込んだ」ことから「会員として会費を負担する」までの関係を一つの記録によって説明できる。
これに対してオプトアウトでは、最初の「加入したものと扱った」という部分に、本人による積極的な意思表示が存在しない。したがって、会費を請求された本人から「私は加入していない」「会員になることに同意していない」と主張された場合、PTAは、何を根拠としてその人を会員とし、会費負担義務を発生させたのかを説明しなければならない。
5 チェックがあっても、錯誤・誤認等の検討は残る
明示的なチェック欄があれば、常に有効な加入意思が確定するわけでもない。学校の入学・進級手続と一体の書類として配布され、提出先が担任であり、「全員提出」とされるなど、学校の必須手続の一部であるかのような外観が作られている場合には、本人が何を認識して「加入する」にチェックしたのかを確認する必要がある。
民法95条は、法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要な錯誤に基づく意思表示について、同条の要件を満たす場合に取消しを認めている。したがって、そもそも申込みが存在しない場合と、「加入する」という表示はしたものの、その前提となる重要な事情について錯誤があった場合は分けて考える。
また、PTAと保護者との関係が消費者契約法上の消費者契約に該当する場合、事業者が契約締結の勧誘に際して重要事項について事実と異なることを告げ、それによる誤認から申込み又は承諾をした場合などは、消費者契約法4条による取消しが問題となり得る。同条には不実告知だけでなく、不利益事実の不告知や一定の困惑類型等も規定されているため、個別の説明・勧誘方法を同条各項の要件に照らして検討する。
区別が必要:申込み自体がないなら民法522条の契約成立以前の問題である。一方、「加入する」と表示した場合でも、重要な錯誤があれば民法95条、消費者契約法上の一定の誤認・困惑等があれば同法4条による取消しが問題となり得る。チェック欄の存在だけで全ての検討が終わるわけではない。
6 消費者契約法10条――不作為を加入意思へ転換できるか
オプトアウト方式には、さらに消費者契約法10条との関係がある。
消費者契約法10条は、「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項」を明文で例示したうえで、任意規定等による場合に比べて消費者の権利を制限し又は義務を加重し、信義則に反して消費者の利益を一方的に害する条項を無効とする。消費者庁の逐条解説も、この例示の背景にある一般的な法理として、契約成立には当事者双方の意思表示が必要であることを説明している。
e-Gov法令検索「消費者契約法」 第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
消費者庁「消費者契約法第10条 逐条解説」 不作為を申込み・承諾とみなす条項の例示と一般法理
したがって、「一定期間内に加入しないという意思表示がなければ、PTAへの加入を承諾したものとみなす」「加入拒否の申出がなければ会員として会費を負担する」「退会届を出さなければ翌年度も当然に加入を継続する」といった仕組みについては、単にPTAの規約に記載しておけば当然に有効になる、と考えることはできない。
もちろん、PTAと保護者との関係が個別の事案において直ちに消費者契約法上の「消費者契約」に該当すると断定できるわけではない。PTAの組織形態、活動内容、会費の性質、契約関係等を踏まえた検討が必要である。
しかし、消費者契約法10条が「不作為を新たな契約の申込み又は承諾とみなす条項」を明文で例示している以上、本人が加入するという意思を示していないのに、拒否しなかったことだけを加入と会費負担へ転換する制度設計は、同条の要件に照らして検討すべき問題である。
7 加入意思からすべてがつながる
ここまでを整理すると、論点は一つにつながっている。
加入意思が確認できるから会員資格を確定できる。会員資格が確定するから会員名簿を作成できる。会員資格が確定するから会費を請求する根拠が生じる。そして、会員名簿を作成・管理するためには、その個人情報をPTAが取得・利用する根拠を整理しなければならない。
ところが、オプトアウト方式では、この一連の流れの出発点である「加入意思」を確認しないまま、会員資格、名簿、会費という後続の法律関係を成立させようとする。そのため、後のすべての段階で「そもそも、なぜこの人を会員として扱っているのか」という問題が繰り返し発生するのである。
だからこそ、任意加入のPTAに必要なのは、「加入しない人を把握する仕組み」ではなく、「加入する人を確認する仕組み」である。
8 後から確認できる加入記録
その方法は、必ずしも紙の書面である必要はない。オンラインフォームであっても、本人が加入を希望したこと、会員として扱われること、会費を負担すること等について明確に意思表示し、その記録をPTAが保存できるのであればよい。重要なのは「書面か電子か」ではなく、本人の加入意思を後から確認できる記録が存在することである。
この記録があれば、PTAは「誰が会員なのか」を確定でき、その情報に基づいて会員名簿を作成し、会費を請求・徴収することができる。さらに、本人に対してどのような個人情報を、どの目的で取得・利用するのかを説明することも容易になる。
反対に、「加入しないという意思表示がなかった」ことだけを根拠として会員資格を発生させる方式では、加入意思、会員資格、会員名簿、会費、個人情報という一連の関係を一貫して説明することが難しい。その上、本人の不作為を契約の申込み又は承諾とみなす仕組みについては、消費者契約法10条との関係まで検討しなければならない。
結論
したがって、ここで問題にしているのは、単に「オプトインの方が分かりやすい」という運営上の好みではない。
任意加入という制度を、会員資格、会員名簿、会費徴収、個人情報の取扱いまで一貫した法律関係として成立させるためには、本人が加入を申し込んだこと、その意思表示が何を前提としてされたか、誰がその記録を保有するかを分けて確認する必要がある。加入/非加入の二択欄を全員に提出させること自体が、オプトインの完成形なのではない。
「拒否しなかった人」や「非加入を申告させた人」を基準にするのではなく、
「加入を申し込んだ人」を会員にする。
この原則を徹底することが、PTAを本当に任意加入の団体として運営するための出発点になる。
